lovefool

たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) * * * * * * * * *

stories

どこでもない

悲しい夢で目が覚めた。君の日記を読んだ夢だった。文字と言うよりスクリーンショットみたいにその一字一句を覚えていた。声に出してみると悲しいことなんか何一つ書いてなかった。目を閉じて夜が明けるのを待った。空が明るくなるともう一文字も思い出せな…

夜を駆ける

埃と油の匂いがする。海辺の工場地帯を僕らは駆けていた。潮でべたついた髪を躍らせて、でもなんか心地よい笑顔で。駆け落ちみたいじゃん、と思った気持ちを気恥ずかしくて言い出せずにいて。納まらない鼓動と焼けた喉はただがむしゃらに走ったからってせい…

ビスコ

冷蔵庫を開けたら食うものがなかった。牛乳もバターもたまねぎも脱臭剤もなかった。からっぽだ。昨日まで何かが入っていて突然空になったのか、ずっと空だったのに気づいていなかったのか良く分からなかった。オレは仕事でくたびれていて何よりはらぺこで仕…

晴れ/雨

晴れ。 屋上に寝そべると空に抱かれているような気持ちになる。まぶたを閉じると赤いような黒いような温度のない空間に吸い込まれて全身の感覚が鋭敏になる。額に触れた冷たく細い指先。コンクリートを滑ってくる日陰の匂いをはらんだ春の風。白いやさしい肌…

ガーベラ

衝撃が体を貫いた。辺りが白くなった。地平線の向こうまでずっとヨーグルトのような白さが続いていて、まぶしかった。誰もいないし、音もない。僕の呼吸と鼓動だけ。のっぺりした鉛色の空は、どこが特に明るいわけでも暗いわけでもなく、ただ広がっていた。 …

スターライン

夜の甘い色をたたえて、愛の名を語り、 僕は一体何になろうとしていたんだろう 見えない線を辿るように、 祈るような気持ちで、 戸惑いを隠しながら、いつか同じ空を見上げられたら なんて、そんなセンチメンタル なくしたもの 忘れたもの 壊れたもの 傷つけ…

赤いとんがり帽

蒸し暑い夜だった。衝撃で目が覚めると辺りは青くて、汗ばんだ腕の間からハンドルに巻いた革の匂いがした。嗅ぎ慣れたその匂いに腹の底から暖かな感じがした。伸びたテープがいつもの音楽を奏でる。だが背筋に奥にはピリピリとスパークするものがあった。光…

金魚

夏を迎えても母の火傷は治らなかった。何度も包帯を替え、病院でもらった塗り薬を塗っても、ほんとに効いているのか私にはよく分からなかった。 「水が欲しいわ。あの水‥」 母は熱にうなされているのか、うわごとのように庭の枯れた井戸の事ばかりを口にした…

温度

「いいよ」が口癖なんだ。許しのコトバ。温かいコトバ。軟らかく包み込むようなコトバ。 「おかしくなってもいいよ?」と彼女は言った。 していいよ、と言われるたびに僕は子供になったような気になった。照れくさい甘さに酔いしれて至福の時を迎えた。 僕は…

夕暮れどくろ

夕暮れが赤くアスファルトを染め上げていて、僕らは汗ばんだ手をずっと離せずにいた。本物の君に触れたくて光の速度で飛んで来たんだ。でも暮れていく太陽を前に、今日という一日が、夜の到来と共にぱちんと消えてなくなってしまうんじゃないかとちょっと不…

青空

サイレンが鳴ったので私は山の向こうに雨が降りだしたことを知った。庭の茄子に水をやる手を休めて、霞がかった北の山頂を眺めた。また今日も会えないのかな。私はエプロンの裾で手を拭くと、錆びた赤い井戸に目をやり、溜息をついた。 「止まないな」 彼の…

紫陽花の葉の上で

紫陽花の向こうに、いつも君を見てた。小さな虹を乗せた雨露を放さずにいた。汗を浮かべて上気した君の首筋。甘く溶けた赤いドロップの味。裸足で駆けてたあの頃を思い出すように、今年もなっちゃんのことを思った。 「メールばっか見てないで、仕事しろ仕事…

プラネット

「‥もう平気よ」 「ホントに?」 この星にひとりで住んでいるこの僕は、前に住んでいた人達の顔を知らない。歩き出せば1分も掛からずに一周してしまうこの小さな星は、赤い屋根の僕の家と電柱以外、何もない。あとは雑草が生えた地面だけ。どこを見渡しても…

さよなら、イエティ。

病院から出ると太陽はいつも私を慰めてくれる。冷たいガラスの自動ドアの向こうは現実世界の色を借りた黄泉の国のようで、ただでさえ好きでない蛍光灯の緑色や、月の表面みたいな色のぺとぺとしたリノリウムの床が、私の精力を爪先から砂時計のように吸い取…

恋のラペロプター

ラペロプターに乗って君に会いに行く。大きな満月の下、きゃしゃなペダルを踏みしめて。思い出すのは羊飼いの唄。あの夏、君が聞かせてくれた草笛の唄。 眼下にきらめく夜の街。鉄の建築物の間で幾重にも重なる工業ケーブル。スパンコールに身を包んだアッパ…

スーパーマン

「ねぇ、スーパーマンになって」と当たり前のように君は言う。「そんなに簡単なことじゃないよ」と僕が断ろうとしても、「じゃあ、おいしいもの食べに連れてって」だって。そんなレベルなんだ。 眠りたくない。 目覚めたくない。 働きたくない。 セックスだ…

インディアン・サマー

大好きだった人の気持ちを抱えて夜更けの家を出た。街の明かりが朝焼けを映す川の向こうに遠くに小さく瞬いていて、たくさんの巨大な虫の目がこっちを眺めている気になった。19までは家出だけど、20を過ぎたら失踪になるんだという誰かの言葉。あたしはまだ…

仲良し

ぐしょ濡れになって帰ってきた僕は玄関でタオルをもらいながら、奥で笑っている君の姿に目をやった。先にやっててくれよと言ったのは僕の方だったけど、君はもう完全に酔っていた。艶っぽい目つきになって、勇二の首にべったりと両腕を絡ませていた。そして…

点の世界

遠く離れた恋人に会いたくてたまらないなんて気持ちを、まるで知っているみたいな素振りで、インテリたちは今日も終わりのない議論を繰り返している。本物の距離、本物の時間、本物の疲労。そういったものは映像や映字の中にしか存在しない。現実逃避が見せ…

ピンナップガールと平坦な坂道

女に手をあげたのはそのときが初めてだった。 「何があってもそんなことはしちゃいけないのよ、あんたは最低だわ」 と自分の心を代弁するみたいにそんな返事が返ってきた。でも僕は謝らなかった。何だって浮気した恋人に、しかもそれを正当化しようとしてい…

白い家の穴

夕方、ミルクを買いに行った帰りにたくさんの人だかりを見た。警察のパトカーが何台も来ていて、赤いランプがぐるぐるとあたりを照らしていた。普段ならそんなことには目も向けずに、自分の生活へまっすぐ帰って行く僕だけど、そうはできなかった。思うとこ…

ロレッカ・ルッラの実験室

まぶたに朝の日差しを感じながら、バニーは夢を見ていた。やさしい大きな雲に包まれる夢。全身を委ねていると、体がどんどん軽くなって、空も飛べるような気になった。天使に羽があるとしたら、それはきっと霧のようなものに違いない。バニーはいつもこの夢…

魔女旅に出る

こぼれ落ちた涙から、どろんと魔女が現れた。僕はもう何が起きても驚かなかった。なぜなら、そのとき僕は最愛の彼女に振られたその瞬間だったから。 もうもうとたかれたドライアイスの煙の中から、むくむくと膨らんで、あっと言う間に小さな女の子の姿になっ…

明日から、あなた。

電車に揺られながら、窓の外を泳ぐ桜並木を眺めていた。真新しい日差しの中で、黄色い帽子の小学生が新しいランドセルを揺らして、お母さんの手に引かれていた。ふとあなたのことを思った。私は左手の、あの時とは違う薬指を眺めた。 会社に入ってから知り合…

失くした半分

落ちてきそうに大きな月の下で、半分に切り取られた太陽のことを思い出した。君の持っていった僕の半分を、今ならぎりぎり許してあげられる。あの夏に落ちた穴の底から、切り取られた空と切り取られた半分の太陽を見上げて、僕もずいぶん年をとった。残りの…

ステレオフォニック

レモンの形は心臓に似ているねとか何とか言いながら、君はその窓から出ていったのだ。あまりにさわやかな笑顔だったので、そこが3階だと気づかなかった。まるでプレゼントを渡し終えたサンタクロースみたいな顔で、君は永遠へと飛び立った。葬式が終わった…

左利きなら、多分そう。

「人捜しをして欲しいのよ。報酬ははずむわ」 そう言ってマギーはきらきらしたスパンコールの仕事着でオレのオフィスへやって来た。マギーは踊り子でオレの恋人の親友だ。よく一緒に飯を食ったり、同じベッドで眠ったりした。その日のその仕事さえ引き受けな…

七夕

へたくそなスナップみたいに、君の笑顔はいつもはみ出してた。銀色の鉄塔の下で抱き合い、小さな魔法を授けてくれる。晴れた丘の上で渓の白い尻を撫でる。夏の草いきれ、脱ぎ捨てた彼女の白い下着に這っているフタホシてんとう。背骨の窪みにたまった汗のし…

スイミング

白く長い2本の足が私の前でひらひらと揺れている。私は青いプラスチック越しにその長いその尾ひれに手を伸ばす。自分の心臓が、水の中で正確なリズムを刻むのを感じる。 由希子先生の後について水に体を沈めていると、このまま温度の保たれた水の中で、言葉…

ビーボくん

彼がいつから僕の家にいるのか思い出すことができない。彼の名前がビーボくんだってことも、彼の口から聞いた割には、最初から知っていたような感じに響いたもんだ。学校から帰ると、大抵ビーボくんは僕の部屋の真ん中で何かをしている。昨日買ってもらった…