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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) 

1997-01-01から1年間の記事一覧

点の世界

遠く離れた恋人に会いたくてたまらないなんて気持ちを、まるで知っているみたいな素振りで、インテリたちは今日も終わりのない議論を繰り返している。本物の距離、本物の時間、本物の疲労。そういったものは映像や映字の中にしか存在しない。現実逃避が見せ…

ピンナップガールと平坦な坂道

女に手をあげたのはそのときが初めてだった。 「何があってもそんなことはしちゃいけないのよ、あんたは最低だわ」 と自分の心を代弁するみたいにそんな返事が返ってきた。でも僕は謝らなかった。何だって浮気した恋人に、しかもそれを正当化しようとしてい…

白い家の穴

夕方、ミルクを買いに行った帰りにたくさんの人だかりを見た。警察のパトカーが何台も来ていて、赤いランプがぐるぐるとあたりを照らしていた。普段ならそんなことには目も向けずに、自分の生活へまっすぐ帰って行く僕だけど、そうはできなかった。思うとこ…

ロレッカ・ルッラの実験室

まぶたに朝の日差しを感じながら、バニーは夢を見ていた。やさしい大きな雲に包まれる夢。全身を委ねていると、体がどんどん軽くなって、空も飛べるような気になった。天使に羽があるとしたら、それはきっと霧のようなものに違いない。バニーはいつもこの夢…

魔女旅に出る

こぼれ落ちた涙から、どろんと魔女が現れた。僕はもう何が起きても驚かなかった。なぜなら、そのとき僕は最愛の彼女に振られたその瞬間だったから。 もうもうとたかれたドライアイスの煙の中から、むくむくと膨らんで、あっと言う間に小さな女の子の姿になっ…

明日から、あなた。

電車に揺られながら、窓の外を泳ぐ桜並木を眺めていた。真新しい日差しの中で、黄色い帽子の小学生が新しいランドセルを揺らして、お母さんの手に引かれていた。ふとあなたのことを思った。私は左手の、あの時とは違う薬指を眺めた。 会社に入ってから知り合…

失くした半分

落ちてきそうに大きな月の下で、半分に切り取られた太陽のことを思い出した。君の持っていった僕の半分を、今ならぎりぎり許してあげられる。あの夏に落ちた穴の底から、切り取られた空と切り取られた半分の太陽を見上げて、僕もずいぶん年をとった。残りの…

ステレオフォニック

レモンの形は心臓に似ているねとか何とか言いながら、君はその窓から出ていったのだ。あまりにさわやかな笑顔だったので、そこが3階だと気づかなかった。まるでプレゼントを渡し終えたサンタクロースみたいな顔で、君は永遠へと飛び立った。葬式が終わった…

左利きなら、多分そう。

「人捜しをして欲しいのよ。報酬ははずむわ」 そう言ってマギーはきらきらしたスパンコールの仕事着でオレのオフィスへやって来た。マギーは踊り子でオレの恋人の親友だ。よく一緒に飯を食ったり、同じベッドで眠ったりした。その日のその仕事さえ引き受けな…

七夕

へたくそなスナップみたいに、君の笑顔はいつもはみ出してた。銀色の鉄塔の下で抱き合い、小さな魔法を授けてくれる。晴れた丘の上で渓の白い尻を撫でる。夏の草いきれ、脱ぎ捨てた彼女の白い下着に這っているフタホシてんとう。背骨の窪みにたまった汗のし…

スイミング

白く長い2本の足が私の前でひらひらと揺れている。私は青いプラスチック越しにその長いその尾ひれに手を伸ばす。自分の心臓が、水の中で正確なリズムを刻むのを感じる。 由希子先生の後について水に体を沈めていると、このまま温度の保たれた水の中で、言葉…

ビーボくん

彼がいつから僕の家にいるのか思い出すことができない。彼の名前がビーボくんだってことも、彼の口から聞いた割には、最初から知っていたような感じに響いたもんだ。学校から帰ると、大抵ビーボくんは僕の部屋の真ん中で何かをしている。昨日買ってもらった…

マーマレイド

死んでしまったら、お花畑とか光とか透き通った階段が見えるもんだとばかり思っていた。嘘だった。今の今までいた世界がカーボン・コピーみたく、そのままそこにもう一つあるだけだった。おそらくこれが僕の望んだ天国の姿そのものなのだろう。ちょっとだけ…

惑星喫茶

らしくないんだ。触覚器真っ赤にはらしてさ、熱い息ふんふん吹き出しながら 「あなたとは住む星が違うのよ」 バシーン!だってさ。たまんないよ。 だいたいそんなこと最初っからわかってたことだろ? 初めて会った夜、何万光年離れていたって私たちはずっと…

コワントロウ

白く上る煙が、僕の前でスパイラルを描いた。君の透き通ったそのドレス。僕はがっかりしてその目を閉じた。 「どうしていつも嘘を?」 「嘘じゃない」 「あまりに見え透いてる、そのドレスみたい」 「つまらないわ」 「本当のことを言えだなんて言わない。で…

グラウンドの影

11月のグラウンドの、白く輝く砂の上で君を見た。もう会えなかったはずなのに、小さな日傘を片手に、真っ白な袖のないワンピースを着て、2本の足でゆっくりと歩いていた。僕の時計は5月で止まったままだった。読みかけの本を中途半端に構えたまま、遠くを歩…

夏が終わる

夕闇が海の向こうに迫っていた。低くて、重く暗い波が何かを叱るように砂浜を叩いていた。彼女はもう終えてしまった花火の燃えかすを袋に集めていた。まるで敗れた夢のかけらを集めているみたいだった。僕はそんな小さな背中を抱きしめた。彼女は驚いてから…