lovefool

たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) * * * * * * * * *

stories

マーマレイド

死んでしまったら、お花畑とか光とか透き通った階段が見えるもんだとばかり思っていた。嘘だった。今の今までいた世界がカーボン・コピーみたく、そのままそこにもう一つあるだけだった。おそらくこれが僕の望んだ天国の姿そのものなのだろう。ちょっとだけ…

惑星喫茶

らしくないんだ。触覚器真っ赤にはらしてさ、熱い息ふんふん吹き出しながら 「あなたとは住む星が違うのよ」 バシーン!だってさ。たまんないよ。 だいたいそんなこと最初っからわかってたことだろ? 初めて会った夜、何万光年離れていたって私たちはずっと…

コワントロウ

白く上る煙が、僕の前でスパイラルを描いた。君の透き通ったそのドレス。僕はがっかりしてその目を閉じた。 「どうしていつも嘘を?」 「嘘じゃない」 「あまりに見え透いてる、そのドレスみたい」 「つまらないわ」 「本当のことを言えだなんて言わない。で…

グラウンドの影

11月のグラウンドの、白く輝く砂の上で君を見た。もう会えなかったはずなのに、小さな日傘を片手に、真っ白な袖のないワンピースを着て、2本の足でゆっくりと歩いていた。僕の時計は5月で止まったままだった。読みかけの本を中途半端に構えたまま、遠くを歩…

夏が終わる

夕闇が海の向こうに迫っていた。低くて、重く暗い波が何かを叱るように砂浜を叩いていた。彼女はもう終えてしまった花火の燃えかすを袋に集めていた。まるで敗れた夢のかけらを集めているみたいだった。僕はそんな小さな背中を抱きしめた。彼女は驚いてから…

「響きの水」18章

「ねぇ、止めたんでしょう?」 左手の指先を見てアサコが嫌そうな顔をした。 「これから止めるんだ、もうラス1だし」 と僕は笑う。 「もう買わない?」 「買わないよ」 「約束する?」 「するよ、もう買わない」 ガードレールにもたれ、やれやれというふうに…

「響きの水」17章

カーテンの隙間から漏れる光は、一定の明るさを越えることをためらっている。僕はアサコの寝顔をずっと眺めていた。茶色い毛布に小さく丸まり、額や頬に差した影の色は、車の向きによって変化を繰り返す。椅子の下に垂れた手は僕の指先を放さずにいる。 車は…

「響きの水」16章

冷えた玄関のタイルの上でアディダスの爪先を踊らせる。ちょっと慌ててる感じを悟られないように、強引に踵を押し込む。玄関にはまだ4人だった頃の家族が寝間着姿で僕を見送りに来てくれていた。 「気をつけてね」 「はしゃぎ過ぎるなよ」 「ちゃんと連絡し…

「響きの水」15章

「え? 何て言ったの?」 「できるかもって言ったの」 「うそでしょ?」 「まだわかんないけど、多分できると思う」 「京都?」 「うん」 アサコの髪はまだ長くて、ワードローブは予備校の頃のものが大半だった。スギノの写真にあった膝上ジーンズだってきっ…

「響きの水」14章

約束の場所にアサコはいなかった。せっかくのローションの匂いも汗と煙草のせいですっかり消えてしまっている。僕は口にガムを放り込んだ。 夜の熱気と人混みは水族館を思わせる。分厚いガラス越しに見る水槽のように、そこには正しい色と時間が失われている…

「響きの水」13章

「おなか空いたでしょう」 と言いながらイッチーだかビッチーだかニッチーだかサッチーだかヒッピーだかウイッキーだかいうジイちゃんの彼女は、笑顔で大きなスーパーの袋を持ってやってきた。彼女の荷物はいつだって大きくて重そうだ。 「オムレツ作るよ。…

「響きの水」12章

澱んだまどろみの中で音もなく夏は過ぎていった。交換留学生の話しが持ち上がったのも、ちょうどその頃のことだ。代表として僕が選ばれた理由は冴えない。優秀な科目があるとか語学力に長けているとかではなく、単に担当の教授の授業の出席率がたまたま他の…

「響きの水」11章

あの時と同じ砂浜を僕らは逆行してゆく。爪先から行く手には真っ黒な影が伸びて、首の付け根が焼かれてゆくのがわかる。 逆光の中でアサコは難しい顔をしている。その表情は昔、美術で習ったマーブリングを思い出させる。たくさんの淡い色がけして交じり合う…

「響きの水」10章

「いい匂い」 アサコがそう言ってくれる度に僕はいつも照れた。 「ただのアフターシェーブ・ローションだよ」 「それだけじゃない、トモユキの匂いだよ」 そうなのかもしれない。そんな風にアサコが好きだと言ってくれたことで、そのローションは掛け替えが…

「響きの水」9章

父親からの電話で起こされた。8月の朝だ。 「どうだ、ちゃんとやってるか」 よく言うよ、と思った。 「まぁ、普通だよ」 「イタリアはどうだった? 楽しかったか?」 「楽しかったよ。でも途中で帰ってきた」 「どうして」 「アサコが交通事故に遭っちゃって…

「響きの水」8章

イクタエリは僕を見て、にっこり笑って立っていた。僕は手で口についた口紅をぬぐい、乱れた手荷物をまとめた。彼女は何ごともなかったようにひらりと出ていった。僕の手に赤い印だけを残して。 授業でミスばかりするので、生徒に指摘された。当然だ。集中で…

「響きの水」7章

空を厚い雲が覆っている。雨の降る気配はない。曇っているけど明るい、そんな日だ。どうやら僕はずいぶん前に右足の腱を切ってしまったらしい。腿から下のその部分は完全に麻痺していて、体にハムをぶら下げているみたいだ。ハムは二度と足にはなりそうにな…

「響きの水」6章

帰国の手続きに3日掛かった。せっかく取れたチケットも気流がどうだとかで正しい時間で飛ばない。半日以上空港で足止めを食った。とにかく落ち着こうと本を開いても読むのは同じページばかりで、煙草の本数は増える一方だった。よくない想像は止まらないし、…

「響きの水」5章

保養所は海のそばの見晴らしのいい丘の上にあった。レアチーズケーキみたいな白い塗り壁、黒い鉄枠の窓、ぶ厚くて全然平らじゃないガラス、逃げ出そうとする建物を地面に繋ぎ止めるように伸び続けるツタ。背が高く大きな門をくぐると広い庭園が迎えてくれる…

「響きの水」4章

色の濃い、異国のきらめきが僕らを包んだ。ジイちゃんと顔を見合わせる。サングラス越しに喜びを隠せない24才のまなざしが見える。僕も駆け出した。 シブヤさんの知り合いタマキさんは、絵に描いたような健康美人だった。腕なんか僕よりずっと太いし、白い歯…

「響きの水」3章

不景気で親父の仕事がなくなってから2年が経った。母親の再就職と貯金で埋めてきた出費にも、もう限界が見えていた。 「オレ学校やめて働くよ」 1年前、僕は鼻息も荒くそう言った。それを聞いて母親はため息をついた。 「あんたがいま学校やめてどうすんの。…

「響きの水」2章

ねぇ、幸せってどんな素材でできてると思う? シブヤケイがそう聞いた。 「何、素材って言ったの? 今」 「幸せって何でできてるんだろう。目に見えないけど」 「素材?? 考えたこともないよ」 放課後の教室には僕ら以外の人がいなかった。単館ロードショー…

「響きの水」1章

暗闇の中でつかもうとしてたもの、つかみかけて失ったもの、あの頃の本当。数年経って振り返ってみると、それらは純度の高くない酒のように、酔っていたことが馬鹿馬鹿しく思える。たくさんの空笑い、無計画な悪酔い、そして翌朝の徒労感。 3年前の僕は22才…