悲しい夢で目が覚めた。君の日記を読んだ夢だった。文字と言うよりスクリーンショットみたいにその一字一句を覚えていた。声に出してみると悲しいことなんか何一つ書いてなかった。目を閉じて夜が明けるのを待った。空が明るくなるともう一文字も思い出せなかった。
夜が来れば孤独が、朝が来れば孤独が、僕の胸を圧迫して声が出なくなった。言葉はのどに詰まったまま、体内に下りて熱を発した。じんわりと長い時間冷めない熱だ。喉が焼けた。
「やっと埋まる感じ?」
「そう、なんか触れてるのにちゃんと触れてないような」
「じゃあ足りなかったのかな」
「ううん。足りなかったわけじゃないの。それがふつうだって思ってたんだけど、気がついたというか。埋まって、はじめて穴があったことに気がついたのかな」
それはそのとき確かにそこにあって、そうでしか交わせなかった微かな何かを僕は大事に想った。
雨が地面や木々を濡らした。雨はいろんな色や音をやさしく包み込んでくれる。顔を上げなくても、傘が隠してくれる。音楽も要らない。タバコが欲しい。目を閉じると自分の血液が流れているのを感じる。血液は生きるためのエネルギーを運んでいるらしい。ホントなのかな?
暗い部屋から、雨だね、と僕が言った。どこかの知らない空の下で、もう止んだよ?と君が言った。僕は自分がどこでもないどこかにいるんだと知った。