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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) 

コワントロウ


 白く上る煙が、僕の前でスパイラルを描いた。君の透き通ったそのドレス。僕はがっかりしてその目を閉じた。
「どうしていつも嘘を?」
「嘘じゃない」
「あまりに見え透いてる、そのドレスみたい」
「つまらないわ」
「本当のことを言えだなんて言わない。でもつまらない嘘に付き合うほど出来がよくもないんだ」
「綺麗じゃない、その方が」
 君は長いまつげをひらひらさせてそう言う。
「綺麗? 嘘が?」


 何かの練習みたいに君はいつも嘘をつく。これは嘘ですって札をぶら下げたような嘘だ。ぴったりと体に張り付いた君のそのタイトなドレス、なにもかも透き通ってて見えてしまっているのに。


 アシュトレイが変わる。時間が巻き戻る。僕の煙草の煙は天井に薄く広がってゆく。


「覚えてる? 君と初めてこの店に来たときのこと」
「覚えてるわ」
「コワントロウを飲みたがってた」
「そうね」
「強い酒は苦手だったのに」
「そうでもなかった」
「今でも飲む?」
「ほかのを飲むわ、コワントロウは飲まない」


 君の座っていた席が君の重みを残したままぽっかりと浮かんでいる。それを見て、僕は遠い気持ちになった。僕らはまた同じところを回っている。あの日と変わらず、同じところばかり回り続けている。ぐるぐるぐるぐる‥。


「名前、知らないな」
「必要かしら」
「君を表すものであれば」
「レイナ」
「レイナ? どんな意味?」
「聞きたいの?」
「聞きたい」
「私を表せば何でもいいんでしょう」
「そうだけど」
 君はちょっと考えてこう言った。
「冷たい魚で、レイナ。‥変かしら」


 グラスの向こうの瞳、シーツ越しの肌、誰かの指輪。何か越しでしか、僕らは愛しあうことができなかった。透き通った君の鱗に触れることができなかった。でももうそれも終わり。彼女は新しい水槽で泳ぎだした。コワントロウの底で僕は目を閉じた。