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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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「響きの水」4章


 色の濃い、異国のきらめきが僕らを包んだ。ジイちゃんと顔を見合わせる。サングラス越しに喜びを隠せない24才のまなざしが見える。僕も駆け出した。
 シブヤさんの知り合いタマキさんは、絵に描いたような健康美人だった。腕なんか僕よりずっと太いし、白い歯が綺麗で、ピンク色のラバーに包まれた小さなバーベルやエクスパンダーなんかが無造作に床に転がっていたりする。


 ジイちゃんは毎日、カメラを片手に駆けずり回っていた。寺院や橋の写真を撮っているみたいだ。僕は時差ボケを理由にゴロゴロさせてもらっていた。合鍵を領かっているので、彼女の仕事中、自由に出掛ける事はできた。僕は毎日自分の昼食を作っては言葉のわからないテレビをつけて食べた。レコードをかけて、植物に水をやったり、洗濯をしたり、掃除をしたりして昼間を過ごした。日が傾いて涼しくなってからやっとシャワーを浴びて、散歩を兼ねた夕飯の買出しに出掛ける。
 西日をサングラスで避けながら海沿いをぼんやり歩いていると、お爺さんがくしゃくしゃの煙草をくわえながら何かを構えていた。よく見るとライフルで飛んでるハトを無表情に撃っている。しかし音からするとあれはエアガンだろう。酒に酔ってる様子もないところを見ると、ただの暇潰しか、稼業に関係のある何かの恨みかも知れない。隣に息子ぐらいの年の若者がいて、落ちる鳩を指差し大声で笑っていた。
 そうだ、今日は週末だからパーティーだな、と勝手にそう決めつけた僕は、食材をたくさん買いこんだ。2種類のパスタ、ワインとビール、チキンと、ピザと、茹でたソーセージと、魚介サラダを用意した。ジイちゃんは本当に容赦なく食べた。彼女にも喜んでもらえた。ずっと誰かの手料理が食べたかったの、と彼女は言った。何か、涙が出そうだわ。
 お祝いっぽいレコードがあまりなかったのでクリスマスソングで我慢した。蒸し暑くてとにかくビールがうまい。
「んあー! もうサイコー」
 ジイちゃんが叫んだ。
「来てよかったねー」
 乾杯しながら僕も言った。
「ずっといてよー、日本語しゃべるの久し振りなのよ」
 タマキさんが言った。
「イタリア語はもうペラペラなんですか?」
「ははは、いや全然。英語とごっちゃにして伝わればいいかって感じ」
「言葉なんて伝わりゃいいんだよ」
 もっともらしくシブヤさんは言う。
「そうは言うけど、商談だしねぇ」
「どんな時困ります?」
「うーん、何か発注された数ひと桁間違ってたりとか、サイズもね、メートル法じゃないから時々違うサイズを送っちゃうの」
 タマキさんの勤めている会社はカーペットの商社だ。
「色もさ、現物の見本があるんだけど、いかんせん中国のだから、染めが全部違うのよ。怒られてばっかりよ」
「んーでも、いいとこに住めてよかったじゃん」
「まーねー、唯一の救いって感じだけどねー」
 タマキさんは、後ろの大きな棚から、高そうなワインと冷やしたグラスを3つ器用に持ってきた。ソムリエナイフを使って包装を剥ぎ、もう日常的な動作という感じに簡単に栓を抜いた。
「あれ、そういやぁ、男は? 結婚するんじゃなかったっけ?」
 ジイちゃんはソファにうつぶせになりながら、腕をだらりとさせて、目も向けずに言う。
「それがさー」
 タマキさんは大きな声でジイちゃんの注意を向けて、
「ダメんなっちゃったのよー。信じられるー?」
「あらー」
 ジイちゃんはどうでもよさそうだ。たぶん恐竜の脳味噌以外は寝てしまっているのだろう。タマキさんは仕方なく相手を僕に代えて話し始めた。僕は空いた彼女のグラスにワインを注いだ。
「今年の春にね、結婚を約束した人がいたの。会社によく出入りしてる業者で、イタリア人だったんだけど、英語しか喋れないっていう人で、ずーっと仲良くって。あたしの仕事の終りをいつも向かいの喫茶店で待っててくれるの。お互いの家にもよく行ったし、映画やバーや海にもよく行ったな。イタリア人て誰でもそうなのかも知れないけど、女の人を喜ばすことにすごく真剣なのね。お花を買ってきてくれたり、ちょっとしたアクセサリー全然おもちゃみたいなやつだけどくれたり、海に行けば自分の上着を敷いて、その上に座らせてくれたり ‥あ、ほら、わたし特に女っけない感じだから、やっぱり余計ね、そういうのがうれしかったの。足りなかったのよ。そういう風にされて初めて、誰よりも大事にされてる気になれたの。で、わたし、この年でばっちり夢を見ちゃったのよ。白馬の王子様がやってきたんだじゃないけど、何か、こう自己暗示みたいなのに掛かってね‥・」
 ジイちゃんは寝息をかき始めている。僕らは顔を見合わせて笑った。
「シブヤくんて昔からこうなのよね。一人でガーッて飲んで、一人で寝ちゃうの」
「ほんとですね」
「女の子と二人でも平気でこうなのよ、ひどいでしょう」
 僕は笑った。
「苦労するわよ、彼みたいなタイプ好きになっちゃった娘は」
「なんとなくわかります」
「聞いたわよ。いるんでしょ、すごい可愛い彼女が」
 タマキさんのしゃべり方は、僕が知らない頃の二人の関係を想像させる。ジイちゃんはどう思っているか知らないが、これは昔の恋を語る口調だ。
「そうですね。とても明るくて魅力的な人です。僕も仲よくしてもらってます」
「きっと、髪が短くて口の大きな娘でしょ? 違う?」
 僕は笑った。
「そうです。昔からそうなんですか?」
「いや、見た目で決めてるって訳でもないんだろうけど、うーん、でも結果的にはいつもそうかもね」
 窓の外には月がのぞいていた。カボチャみたいに重い色の月だ。アサコは今教習所に通っているだろうか。僕のことを時々は思い出してくれてるかな。いなくなってせいせいしてるだろうか。僕は君のことばかり考えているよ。今日みたいに酒を飲んだりすると、もう反射的に恋しくなる。べっとりしたキスがしたくなる。あーもう! やっぱり危険を犯してでもつれてくるべきだったかなぁ。すんげー寂しいよ。
「まだ飲む?」
 タマキさんは空いた食器を台所に運んでいた。彼女もけっこう酔っていた。
「あ、僕、明日洗いますから」
 僕は慌てて立ち上がったけど、足元がふらふらしていた。サイドボードに手をついて、危うく植木鉢を落としそうになった。タマキさんがそれを見て笑った。仕方なく僕も笑った。
「もうやめときましょう。明日は外に出たいしね」
 僕はうなずき、毛布をもらって部屋の電気が消えた。


 心臓が弱い僕は、ワインのせいか動悸がして、眠ることができなかった。さすってみたり、目を閉じて深呼吸してみたり、忘れた振りをしたりするものの、一向に穏やかになる気配はなかった。ベランダの窓が開けっ放しになっている。僕は起き上がり、差し込む月明りの中で風に揺れるカーテンを見ていた。やがてそれにも飽きて、大きな音を立てないように裸足のままバルコニーに出て、煙草をもう1本だけ吸った。今日は吸い過ぎだ。アルコールが入ると止まらなくなってしまう。
 外はまだ蒸し暑い。空には馬鹿みたいに星があふれてる。画鋲のケースをぶちまけたみたいにギラギラしている。
 京都で見た星空は綺麗だった。去年、僕とアサコは夏休みの今頃、ふたりだけの小さな旅行をした。お金なんか全然用意できなかったから、帰郷中のアサコの友達の下宿を借してもらった。往復も夜行バスで食事は自炊した。でもそのお陰で1週間も一緒にいられた。夜通しセックスして、ぐったり昼過ぎまで寝て、夕方涼しくなってから服を着て外に出た。アサコの作る飛んでもないセンスのスパゲッティや、スーパーで買ってきた小さな花火セットも楽しかった。そんな誰にも急かされない二人の時間は、もう二度と来ない気がした。
 僕は今、イタリアにいる。アサコは今、八王子にいる(はず)。僕は今、夜空を見ている。アサコは今、車に乗っているかな。教習所の話しばかりしていたので、それ以外の姿がさっぱり思い浮かばない。今みたいに学校の課題がないときは尚更だ。僕が来ない部屋はやっぱり寂しいかな。僕以外の誰かが来てるのかな。買い物に出掛けてるかな。それとも何もなかったみたいにテレビを見て笑ってるだろうか。全然わからない。僕が普段いてもたってもいられなくなってアサコに電話を掛けると、5コールも6コールもしてからじゃないとなかなか出ないくせに「いま私もトモユキのこと考えてたんだ」なんて無邪気に言う。「何してた?」って聞いても「えー、テレビ見てたー」とか「ベッドの上で本読んでたー」って答える。きっとそれは本当の事なんだ。
 バルコニーから見える海は、夜なのに青くきらめいて見える。細く裂いた黒いビニールのようにも見える。波が弱いのと月の光が強いせいだ。海沿いの道を歩く僕らみたいに酔った若い連中の笑い声が聞こえた。




 翌日タマキさんは僕らの観光ガイドになってくれた。とは言っても名所や買いものにはハナから興味のない僕らだ。タマキさんはレンタカーで、見晴らしのいい雑居ビルの屋上や、おいしいホットドッグの出店や、裸で泳げるビーチ(多分誰かのプライベート・ビーチだ)や、品のよいギャラリーや、日本の雑誌を置いている本屋や、初めてでも危なくないクラブに連れていってくれた。
 借りた車がオープンカーだったせいもあって、頭上を吹き抜けてゆく潮風と太陽に心も体も充電されるような気分だった。
 その時だ。歩道に溢れる人ごみの中で、僕はレコード屋の万引き防止装置みたいにその存在を感じ取った。僕が反対の歩道を見ていたとしてもきっと見逃さなかったと思う。
「停めて!」
 と僕が叫ぶと、つんのめるようにして車は停まった。驚くタマキさんとジイちゃんを置きざりにしたまま、オープンカーからドアを開けずに飛び出して、今来た道を走り出した。歩道の人混みはまるで僕の行く手を遮るように向かってくる。真夏の太陽が走ってる僕の肌を焦がした。ソフトクリームを持った子供にぶつかって、それが僕の脇腹に当たって落ちた。子供は泣いた。ごめん、今それどころじゃないんだ。なかなか前に進めない。僕は通勤ラッシュの山手線に乗りたいわけじゃない。外人と体をこすり合わせているうちに、僕のシャツは自分のではない汗ですぐにべたべたになった。首を振って行き交う人々の顔をひとりひとり確認していると、振り向きざまサングラスが弾け飛んだ。飛んだ先を探す前に、誰かに踏まれて割れた音がした。汗が流れて顎の先まで垂れてくる。シャツについていたアイスクリームは溶けてジーンズを汚している。眼鏡がなくなり、人の顔もよくわからない。目の端に映っただけだというのに、人違いはありえないと僕は確信していた。しかし見失ってしまったかもしれない。そうだ青いシャツだ。青いTシャツを着ていた。僕は何度も飛び上がって青い色を探した。みつからない。僕は縁石にへたってしまった。でもそれは結果的に正しい選択だった。縁石の脇で露天でシルバーのアクセサリーを見ているその華奢な後姿。僕は思わず笑い転げそうになり、こぼれる汗と呼吸を整え、ついに声を掛けた。
「スギノ!」
 スギノマリアはイタリアで聞く自分の名前を、自分にしか話しかけない妖精の声でも聞いたかのような顔で振り返った。
「ワ ‥タナベ、くん?」
 僕は思わず汗でべったりの両手を差し延べた。
「やっぱりスギノだったんだ−。さっがしたー」
 スギノは状況が未だに飲み込めずにいるらしく、大きな目を何度もばちくりさせて、笑った方がいいのか泣いた方がいいのか、それとも怒るべきなのかと、どの表情からも中途半端な顔をした。
「ど、どうしちゃったの? なんでここにいるの?」
 僕が手品を披露したような顔だった。
「たまたま車で通り掛かっただけなんだけどさ」
「たまたまって、え、なんで? うそでしょ?」
「うそじゃないよ。オレもすごくびっくりしてる」
「なんでイタリアでたまたま会えるの?」
「わからない、でも会えたんだ」
 僕は両手を固く取り合ったまま、収まらない心臓の鼓動と、スギノの不安そうな顔をなくそうと笑った。彼女の不安が僕の手を伝わってくるのがわかった。
「元気そうだね」
 僕は言った。そう言わなくちゃならないほど選択肢がなかった。少し会わない間にスギノはずいぶん変わっていた。栗色の髪は金色になり、目から怯えた小動物のような色が消えないし、第一あの素敵な笑顔がない。色白で赤ちゃんみたいに透き通った肌も、色っぽかった細い指先もなんか前と違った。
「ほんとう久し振り、2年、振り?」
「そうだね、2年になるかな」
「大学は? T大、受かったんでしょう」
「うん、楽しくやってるよ。スギノは?」
「あたしは駄目。学校行ってないの、今」
「ずっと?」
「‥うん」
「こっちに引っ越したの?」
「‥ん、ん−ん、遊びに来てるだけ。ワタナベ君は?」
「ん、オレも友達と来ててさ。実は、そこに待たせてるんだ」
「え、いいの?」
「いいよ。ね、それで普段は?」
「普段は‥ 平日は遺跡発掘のお手伝いとかしてる」
「発掘? 掘ったり?」
「うん、掘ったりとか‥ 計ったりとか‥ 写真撮ったりとか、壺の破片洗ったりとか、いろいろ」
「へえ」
「雑用みたいな感じだけど」
「もう長いの?」
「んー、まだそんなに。半年とかね、そんくらい」
「あ、そっか。そういう調査って時間かけてやるんだよね」
「うん、1年とか2年とかね」
「少しずつ大事に大事に掘るんだ」
「粘土べらとブラシで、しゃかしゃかって。1日にね、ほんの少ししか進まないの。スコップはね、移植ごてって言うんだよ」
「そういうの向いてそうだね、スギノ」
「うん、向いてると思う。わたし」
「楽しそうだ、どろんこになって」
「あのね、穴の中ってね、いいんだよ」
「静かで?」
「うーん、一人で集中するのに向いてるから、かな」
「絵を描くのに似てるのかな」
「ん、そうね」
「時間を忘れる?」
「うん、変な姿勢で何時間もいて、穴から出れなくなったりする」
 そう聞いて僕は笑ったけど、長いインターバルのせいか、それとも今日という日と場所のせいなのか、うまく笑えなかった。その不安の理由はすぐに分かった。
「あのね、遊びに来てるっていうのはほんとは嘘」
 スギノが申し訳なさそうに言った。
「保養所があるの、そばに。そこにいるのあたし」
 スギノがうなだれてしまったので、慌ててまた手をとった。
「つらい?」
「んーん、楽しい。でも突然ワタナベ君に会ったから、すごくびっくりして‥」
 僕は途端に申し訳ない気分になってきた。リハビリの中で僕は彼女の障害になっているかもしれなかった。
「ごめん、驚かしに来たわけじゃなかったんだけど‥」
「ワタナベ君、元気にしてた?」
 スギノは無理な笑顔で言う。
「うん、ずっと元気でいたよ」
「あたし変わった? ねぇ、変わって見える?」
 すがるような目で彼女は言った。
「ううん。昔のまんまだ」
「寂しそうな顔してない? 悲しそうに見えない?」
「してないよ」
「どんなふう?」
 僕は彼女の目を見て、馬鹿なこと聞くなというふうに言った。
「僕の好きなスギノのままだよ」
 スギノはほんの一瞬笑顔を見せた。
「‥ありがとう」
 でも、それはとても悲しげな笑顔だった。


 保養所の電話番号と住所をもらって車に戻ると、二人は椅子を倒して大きなソフトクリームを舐めていた。さっきの子供に買ってあげるの忘れちゃったな。それにこの染み‥。
 僕は二人に謝り、夕飯はおごるからと約束した。もう夕方だ。
「昔の女?」
 見てもいないくせにジイちゃんは的確な突っ込みを入れてくる。
「帰ったら、アサコに言っちゃおー」
「ちょ、ちょっと」
「あら! ワタナベ君、いるんだー彼女」
「あー、なにおまえ、昨日オレが寝てる間にタマちゃんに言い寄ったの?」
「しないわよ。誰かさんじゃないんだから」
「オレ、ジイちゃんに毛布かけてやったのに」
「あ、ごめんなさい。悪かったです」
「ねぇねぇ、彼女ってどんな人?」
「え、どんな人って‥」
「はーい、僕が言いまーす。やさしくて可愛くてやらしくて、ナベにはもったいない娘ー」
「えー、やらしいのー?」
「やらしくないですよ、ジイちゃん何言ってんだよ!」
「えー、洒、コップにこーんなちょこっとですぐ酔って、やらしい目するじゃん」
「やらしい目するとやらしいのかよ」
統計学的には」
「オレの経験では、の間違いでしょ」
 タマキさんの指摘にみんなが笑った。夕飯はロブスターの店で、安くてでかい海老やカニをたらふく食べた。ビールがとにかくうまい。昼間たくさん汗をかいて、うまい飯にありついてる証拠だ。これ以上口に入れたら戻ってくるというところまで詰め込んで、また下らない冗談を言い合いながら家路に就いた。ドラえもんの『どこでもドア』を開けたとき、裏側に回ると開いたドアの空間には何が見えるのかみたいな話しだ。
「多分ね、ドアの裏側の絵が貼ってあるんじゃないかと思うわけ」


 みんながアサコの話しなんかするから声が聞きたくなった。迷ったけど、電話を借りることにした。日本は今は朝かな、夕方だろうか。長い長い電話番号をたどたどしく押しながら、ブツブツと回線が海を渡ってつながってゆく音を聞いた。電気と電話を考えた奴は偉いな。僕はこんな時いつもそう思う。どんなに離れていたって、僕が番号を知ってる電話のそばにいさえすれば、今が繋がるのだ。今を伝えられるのだ。1台目の電話を作った人はどんな気持ちになったんだろう。
 僕はうきうきしながら回線が繋がるのを待った。もうすぐだ。アサコは今寝ているかも知れない。でもこの気持ちを抑えてくれるのは君の声以外にないんだ。世界中探したって代わりがないんだ。国際電話で喧嘩したって僕は構わない。声さえ聞けたら満足なんだ。トモユキって呼んでよ。今何時だかわかってんのって怒ってよ。あ、回線が繋がった。トゥルルルルルルー‥ トゥルルルルルルー‥。何コール目にアサコは受話器を上げるかな。3コール目? 5コール目? それとも8コール目? 僕は今にもほころびそうな顔でコールを聞き続けた。