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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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CD「TTAGGG」marimari

TTAGGG/Since Yesterday

TTAGGG/Since Yesterday

マリマリの新譜が出た。何年ぶり? うわー丸々2年ぶり? 内容なんかどうであれ、もうそれだけで今は充分。もう2度と会えないんじゃないかって心配だったよ。


フィッシュマンズのファンなら、多分知らない人はいないだろうっていう知名度のはずなのに、探せど探せどちゃんとしたファンサイトがないっていうのはどういうことなんだろう。去年は初めてのソロのライブにも行った。クラブクアトロ。同性の反感を買うような危うい色っぽさだよなぁって思っていたら、意外とそんなことはなく、お客さんも普段見かけないような色っぽい女性が多かったのがすごい印象的だった。バックバンドはフィッシュマンズ全員という構成で、リズムキラーマシンガンっていうバンド名を名乗っていた。悲しいかな、僕はそれが最初にして最後に見たフィッシュマンズ3人の姿になってしまったけれども、そのライブは佐藤伸治マリマリの素敵空間に満ちあふれていて、演奏のうまい下手より、ふたりの間に流れる親密な体温の温かみに、なんだか見てる方がうっとり幸せになっちゃうような、そんな不思議な時間体験だった。マリマリの音には佐藤伸治は欠かせないし、二人でマリマリなんだろうな(うらやましいなー)って思った。


例えば、前のシングル「J」にはこんなフレーズがある。

好きだよって耳元で ねぇ 言葉は使わず 伝えてみて
Love Is Feel And Feel Is Love 笑ってみせて
2人の音楽が止まらぬように


いやー、もうタイプしてて、恥ずかしさに顔が赤くなりますけど、つまりまんまそういうことですわ。それで何もかもが完璧だったんだって思った。音のない夜のしっとりと濃密な空気を共に過ごすような、無茶苦茶パーソナルで、閉じた完璧さ。窓の外なんか知らなくたって、欲しいものはここに全部あるっていうような、両手の中に溢れる甘い甘いぬくもり。


だけど2年ぶりのマリマリは、遠くをじっと見据えている。朝の眩しい光にも目を細めることもなく、指にさえ歯を立てて、写真には写ってないけど、地平線までその視線は延びているって確信できる。風に揺れる長い髪にも、剥き出しの白い肩にも、少女のように塗られた赤く丸い爪にさえ、これから向かっていくものに対しての強い意志を感じる。


佐藤伸治の演奏が残されている3曲目の「drip」は同じシーケンスの中を英語で囁くだけの曲だ。ライヴの前奏にも同じテープが使われていて印象的だった。この詞の全訳が載っていたので転載する。

眠らない日々は 笑って見せて
終わらない日々を ドリップ
今 全てを知ることが
重要な訳じゃ ない


ライブの前日に急遽録音されたその曲は、眠れない夜の隙間に忍び込んでくるように空間を満たす。佐藤伸治が元気だったときの曲なのに、まるで今のマリマリの意志や視線を音という優しさで包み込んでいるみたい。タイトル曲の「TTAGGG」にしても生物学で言うところの染色体の端っこの塩基配列(チミン,チミン,アデニン,グアニン,グアニン,グアニン)のこと。ここに細胞の老化の情報が詰まっているって言われているんだよね。その細胞からクローンを作ったりするところから、遺志を継ぐって言うような深読みも出来るのかな。


まぁ、音楽を聴くために必要以上にメランコリックになることはないけど、僕はいつだって、誰かが何かを始めようって歩き出す瞬間の顔が好きだよ。朝ですね。朝ですよ。