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映画「ヴァージン・スーサイズ」

ヴァージン・スーサイズ [DVD]

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映画「ヴァージン・スーサイズ」を見てきた。話題になっているらしく、午前中の回なのに満席、それも判で押したように同じ年格好の女の子ばっか。二十歳ぐらいでメガネしてピアスして、足首までのパンツを穿いて、申し訳ないような曖昧なパーマとヘアマニキュアを掛けてる。多分relaxとか読んでる。


映画は25年前のお話で、学校の教師の娘である美人5姉妹の内、精神不安定の妹が自殺してからの1年を描いている。タイトル(Virgin Suicides)からもわかるように結末は自殺。全員死んじゃう。でもそこには追いつめられるような緊迫感も、涙を誘うような悲しい出来事も、痛々しくて悪趣味な残酷描写もない。原因も分からなければ、いろんな偶然ががそこに向かうように並んでいるわけでもない。十代の女の子のありふれた恋や、何となく違和感のある現実との関わり、些細なことで揺れ動く気持ちの移ろいが、日常の、斜めではない極自然な視点で語られる。特別なことは何一つ起こらない。だけどその丁寧に丁寧に描かれる日常の温度感、湿り気がとてもすばらしい。


雑誌の切り抜き、塗り慣れないペティギュア、食べ散らかしたまま階段に置かれたスコーンの皿、その手すりに掛けられたよろよれの寝間着やストッキング、洗面台に並べられたたくさんの安い化粧品、居間にある居心地の悪い家族という連帯感、庭の芝生の上の枯れ葉、それを染め上げていく夜の青、朝帰りの眩しい光、服に付いた煙草の匂い、幼くあやふやな恋。


Air(エール)のどこか距離感や虚無感を感じさせるサントラも相まって、本来現実過ぎるくらい現実的なそれらの事象は「過去」と同じ膨大な時間の濾過が持つ、透き通った(でも届くことのない)美しさを獲得する。彼女たちの笑顔や柔らかそうな体に手を伸ばしたい気持ちでいっぱいになりながらも、どこかふと目を細めてしまうのは、劇中の語り部でもあるイケテナイ少年たちだけじゃない。それは永遠に届かない「どこか」にある美しさであるからこそ眩しくて、ストーリーの上で彼女たちが死を選ぶ唯一の理由だったかも知れない。美しいものには届かない、色あせないを実証させるように。


死について僕が何かを語るには、まだあらゆるものが全然足りないと思う(また足りる日が来るのかもよくわかりません)。でも死んでしまってもう会えない友達を思う時、不思議とこの映画を見た後のような、不連続で静止画的な、それでいて色鮮やかな世界が風のように僕の体を駆け抜ける。


2時間というまとまりやカタルシスの不足、そして場内を包むなんとなくスノッブな匂いに僕は、お金を払って得るエンターテインメントとしてこの映画を絶賛する気にはなれなかったけど、確実に心のどこかを揺さぶられたんだなぁと思った。そしてそれは他の映画にはなかったオリジナルな揺さぶられ方だったので、多分数年後にもっかい見直すかもな、と思った。そういうのにお金を払える人に、オススメ。85点。