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漫画「ドムーン」天久聖一


結果を知っていながら、できそうでできないと言うか、誰もやってないと言うか、端書きぐらいは書いたことがあるんだけどお金をもらう代償として、ちゃんとそれに対して真剣になれない「新しい表現」って言うのがあって、それをしっかりモノにしてがんがんのし上がっちゃう人たちを見るとジェラシーを通り越して、言葉を失っちゃうんだな。


数年前パルコには「ゴメス」というマンスリー・プリーペーパーがおいてあった。特に目的のないギャグなんかで満載のB4ぐらいで12ページぐらいあったかな。毎月すごい楽しみだった。パルコに行く用事なんてゴメスをもらいに行くぐらいしか思いつかない。その無料なのにも関わらず、無闇に高いクオリティとテンションに学生だった僕は鼻息を荒くしたり、めまいを起こしたりしていたもんだ。


そこに連載されていたのが「バカドリル」だった。「正しい体重計の乗り方」「正しいあやとり」とかね、「王選手の解剖図」、藤子不二雄世界をパロディでやった「ブッチュくん」も全部ここが初出典だったんだよな。知ってますか? 数年前に連載をまとめた単行本2冊とCDロム付きの「メカドリル」なんて本にもなりました。今は文庫にもなってるらしい。僕の中では発想のバイブルとして、会社の本棚に仲良く並べている名著ですよ。


そのバカドリルのメンバー「天久聖一」が送る最新作がこれ「ドムーン」ですよ。帯を読んでみよう。

ドムーン

ドムーン

「バカドリル」「バカはサイレンで泣く」で知られる鬼才・天久聖一による超絶250ページ。究極の合法ドラッグマンガ」


うーん、簡潔でカンペキなコピーだね。合法ドラッグ、うんまさにそんな感じ、そんな感じ。わかんない人のために補足しておこう。目次ね。


「キャツアイ」「つっぱり西遊記」「ラジコンかあちゃん」「青春大河マンガ・ブタ男と2メートル男」「おーい!!イモパンティー!!」‥‥。


もうビジュアルはそこから想像してもらうしかないんだけど、これってあの退屈な授業中にプリントを裏返して書いた熱血マンガそのもの。あの下らなくも不思議な魅力を持ったあの時間がものすごいテンションで250ページの最後まで駆け抜けて行くわけ。もちろん2Bって感じの鉛筆タッチ丸出し。スクリーントーンもなければ定規もないって世界で、そのくせ意味不明で印刷屋泣かせのの背景色で、実験的かつ単に読みにくいビジュアルブックとしての見せ方も考えてみたり。


これだけコンピューター万歳って感じのグラフィックデザインが溢れる中で、当然のように手垢にまみれた原稿用紙がやたら新鮮に見えるのはもちろんのこと。それに気づいていながらもこの作者と同じ以上の熱量を注げなかった僕らは、もう全然ダメっつうか、不真面目。反省しっぱなし。


「すごいよ!!マサルさん」「女子高生ゴリコ」もそうだけど、作品自体の自立性とか完結性っていうのはそんなには高くないって思うんだ。でも、今まで誰も真剣にはならなかったそのモチーフに対してちゃんと熱量を注ぎ込もうって思えた彼らは誰にも負けない冒険を、胸を張るような冒険をちゃんとしたんだと思う。誰かの成功の部分的な真似とか、小綺麗な仕上がりとか、時間に見合った密度、とかじゃない、自分にちゃんと向かい合った時間をしっかりつかんだ過程。それをね、この作品からは感じるわけですよ。それが悔しいし、うらやましい。だってさ、彼らはお金をもらわなくたって絶対ここに辿り着けた人たちだもん。楽しんでやって、それで生活ができるなら、それに越したことないなぁ。そういう当たり前のことを浪人時代以来初めて思い出させてくれたのでした。ありがとう。新しいバイブルにします。