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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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サヨナラの夢


サヨナラの夢を見た。だけど、最後にもう一度だけ会いたいと彼女は電話でそう言った。これで最後だから、もう迷惑掛けないから、ねぇお願い。僕は黙ったままだった。声の出し方を忘れてしまったみたいに、固くなって動けなかった。


「すごく大事にしてくれる人をみつけたの。ふつうの人だけどね。その人と暮らすつもり」
「そう‥ おめでとう」


やっとの思いでそれだけが声になった。


「ね、会ってくれるでしょう。話がしたい。少しの時間でいいの。‥その、ありがとうを言いたいから。ねぇ、いつだったらいい?」


僕は痛いくらいにその気持ちを感じながら、まるで昔の自分に言い聞かすように言った。


「ありがとうは言わなくてもわかってるよ。忘れたりしないし、これからも大事と思える。でもぼくらはもう会わない方がいいんじゃないかと思う」


それを聞いて彼女は絶句した。数年前の僕と一緒だった。夜の真ん中は、真空の世界のように青白く色を失っていて、耳鳴りのような音でいっぱいだった。沈黙が続いて、孤独の中で抑えようとしていた気持ちが揺らぎ始めると、やがてすすり泣きに変わった。電話の向こうの泣き声はそれが初めてじゃなかった。僕がもう少しやさしかったら、僕がもう少しあたためてあげられたら、僕がもう少しちゃんとしたオトナだったら、きっとこんな悲しい目になんか遭わせないですんだんだろう。だけど僕はもう彼女を慰めなかった。泣いたままの彼女をおいて電話を切った。痛かった。一瞬、彼女の部屋と涙に湿った服の匂いがしたような気がした。錯覚だった。目が覚めたら涙でいっぱいだった。