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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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 CD「OOkeah!」「OOyeah!」 スーパーカー

OOKeah!!

OOKeah!!

OOYeah!!

OOYeah!!

モノを作って行く上で最終形をちゃんと思い描けている人は案外少ない。気持ちのこもったパーツを積み上げると、大きくてバラエティ豊かな街のようなものになるって思っている人の方がずっと多い気がする。全体を見渡してから、それを向かわせたい方向づけをして、パーツの一つ一つをその方向づけに対してばっちりな具合に磨き上げて行く作業って、映画製作、自動車の設計、建築同様、冷静でしっかりした神経がないとそう簡単にはできないんだよな。


スーパーカーが今まで発表した2枚のオリジナルアルバムを聴いていると、そこに込めるべきシンプルなイメージを磨き上げるように、曲と曲同士が連なり響き合っているのを感じずにはいられない。フリーハンドで大きい紙に一筋の放物線を描くような、そんな自然な爽快感と美しさの中に一曲一曲がきっちり納まっている。1枚目では「初夏のような青く高く広い空」を2枚目では「雨の日の景色のような甘い輪郭のやさしさ」を、様々な曲の集合体が生む群像的なイメージとして、ではなく、そういったベクトルを与えられた容器の中に、曲を磨き上げ、取捨選択をして行った痕跡が伺える。ただ集めてつないだんじゃなく、目的に合ったものを選び、更に磨き上げたって行為だ。結果、それを「充たし」さらに「越えて」きて初めて生まれるって類の美しさを、あの2枚のアルバムは見事獲得していたと思うのだ。


今回リリースされたこの2枚の企画盤「OOkeah!」「OOyeah!」は、その2回の取捨選択からは惜しくもあぶれた個性豊かなイメージ群。そこにはあの流線形の車体ような一筋のテーマが存在しない分、自由気ままな彼ららしさが溢れている。いびつだったり、勢いが過ぎたり、実験的だったり、ほんのちょっとだけいいかげんだったり。まるで今までのアルバムが正装だったら、普段着のスーパーカーって感じの。これを聴くと新曲を出すたびに「気負いのない自然派」とか言われて首をひねっていた彼らの気持ちとか、なんとなく通じてちょっと笑ってしまったりもすんね。さっくりした軽さが2枚同時発売っていう勢いの中で照れ笑いのようにきらめいている。


だからってそれらが若くして評価されたバンドの、うぬぼれに乗じた企画盤になっているかと言うと全然そんなことはない。そしてマニアにだけ向けられた普段と激しく毛色の違うサービス盤と言うスタンスとも思えない。なぜならここに描かれるイメージ群たちは、まるで僕らの住む世界とパラレルに走る、ちょっとずつ異なった未来の内の一つのようだからです。むしろ「本来そうだったかもしれないもうひとつのスーパーカー」なんだって風にも受け止められる。それは「表」に対しての「裏」に対応するものではなく、同じ価値の上にあるもう一つの表。表現やメッセージをクリアにまとめることにあまりに長けている彼らの現在のイメージからすれば、「19歳でデビューした若々しい期待のバンド」っていう形容にはむしろこの2枚から感じるバラエティーに富んだ開放感の方がしっくり来るものかもしれない。ライヴなんかを含めたスーパーカーってバンドを知ってもらいたかったら、この2枚から聴いてもらうほうが伝わりやすいのではないか。


「これは3rdアルバムではなくて、次のステップに進むまでの整理整頓、引越しのようなものです」と彼らは言った。引越しは次の目的地がはっきりしていて初めて成立するイベントだ。今後の彼らにはまだまだやりたいことがあって、そのやりたいことの実現にも今回のこれらの曲が「含まれない」からこそ、今この膨大なリリースがあるって理解していいんだろう。つまりは次回にはまったく新しいスーパーカーが見れるという確信でもあるし、観客である僕らはそこに充分な期待を掛けていいんじゃないかと思う。この2枚を通じてたくさんあるって言ってた引き出しのやっと半分ぐらいが見えた気がすんね。そんな彼らと一緒の時代を生きててホントによかったです。素敵すぎ。