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松崎ナオ ライブ


6月14日に松崎ナオのライブ「FLY」に行ってきました。in クラブクアトロ。もう、むちゃくちゃ飛ばしてました。今まで出してきたレコードの数々からするとしっとりした感じだろうと思って、席も後ろの方でのんびり見ようと階段付近でミックスト・ナッツなんかつまみながら油断してたんだけど、始まったらすげえロック。一曲目から煽るように「来い来い」って仕種なんかしちゃって、びっくりしました。


なんかね、松崎ナオって知らない人に説明される時に「ソフトなコッコ」みたいに言われることがあって、なんじゃそりゃー、ふざけんな(オレのナオに!)とか思ったもんですが、今回のアレンジは「そういう説明もまるっきりナシってわけではないなぁ」と思うような、傷だらけ疾走ロックな感じでしたよ。重ーいアレンジで歌い出しから叫ぶように「今のボクに何が歌えるの? 壊れなくて何ができるの? 果ての果てに何があるって言うの?」だもんなぁ。


初めて見る実物の彼女は、パンツの上に薄手のスカート2枚を重ね着して、茶色い毛皮のビスチェから白く伸びた腕に畜光塗料で「FLY」って左右逆さまに書いていた。思ったより背が高くて、目が野生の小動物のようにきらきら輝いていて、曲や映画の印象よりも力強い人に見えた。まぁ、しゃべり始めた途端、いつものだらだらーってふうなやさしい感じにもどったけどね。


彼女は自分の想いを言葉を使って伝えることより、歌やメロディーに乗せるほうが楽な人種なんだろうというのが会う前から想像だったんだけど、会ってみてまったくその通りだったとすごく実感した。彼女が日本語を会話として使うときは、頭の上あたりにいつまでもつかまらない想いを浮かべていつも追いかけている感じ。まるでネイティヴなジャパニーズじゃないみたいに数少ないボキャブラリーから言葉を捜しては「んー、このコトバじゃ言えてないなぁ」って顔をする。そのもどかしさがまた「歌」と言う表現の原動力に還元されていくんだろう。そこがまたぶうこ的な魅力でもある。


会場には両親を始め、妹やおばあちゃんまで見に来ていて微笑ましかった。お父さんなんか全然合わない拍子でリズムを取っていたりしてね、幼稚園の運動会とか発表会みたい。考えてみれば、彼女は僕の妹と同じ歳なわけで、そんな娘を舞台に見上げる家族の気持ちとか、なんかやっぱそういう感じがふつうなのかもね。


さんざん重くて激しいアレンジの曲が続いた後に「今日初めて私のライブに来た人はくらーいライブだと思って来たでしょ。ぜったいそうでしょ」なんて笑ってみせる彼女はいたずらっ子のようでした。「暗い曲を書くから、よくそう思われがちなんだけど、これからは明るい曲を書くんだ。次に出す奴とかカップリングももうどうしようってくらい明るいよ。あたしゃもう知らんよ」とか言いながら発表された「恋の歌」とされる「アメマチヒトモヨウ」(新曲)。でも全然明るくはなかったりしてね。その辺の感覚のずれもすごいな。


バンドのメンバー紹介はなかったんだけど(忘れた)、ものすごいプロフェッショナルを感じるいい演奏でしたね。メンバー同士、終始ニコニコしながら演奏しているんだけど、甘えとか奢りは一切なし、余裕だけばっちりってな感じ。実際、最終日にして最高のライブだったらしく、長年のファンからも「今までで一番最高。こんなに元気なナオちゃんを見たのは初めて」ってな声がよく聞けたよ。曲数も他より2曲多かったり、構成も変わってたり、ツアー中一度もうまく行かなかった曲の演奏が初めてばっちり決まったり、高ぶったナオちゃんがやけに「飛べ!」って観客に求めたりね。そういう小さな魔法が詰まった日だった。家族にもらったチカラだったのかな。


以前、紹介したシングル「鳥が飛ぶ意識」は確実に今後の彼女を表している転機の一作となっているようで、この曲では史上初のダイバーが出ましたよ。アルバムしか聴いたことない人は想像もつかないよね。4人だったけどね。


「彼女の男性的とも取れる理性にひかれるのかも」と前に書きましたが、実際彼女は繊細なココロと強靭な意志を持った(持っているから)やさしい人だと終わった後の余韻の中で僕は思った。というか、ホントは反省しちゃったんだ。「インディゴ地平線」あたりでスピッツが幻想による救済を捨てて、大地を踏み締めるような歌詞が多くなったときに、僕はすごい嫌悪感を示したけど、松崎ナオの歌詞にはあらかじめ幻想も救済もない。なのにひかれるのは、どっしりと構えた自分の責任の上に研ぎ澄まされた感覚がやさしく乗っているからなんだね。それを感じてしまった僕は、もう自分の弱さやもろさに甘えたり、支えられてばかりで生きていくような姿勢をすごく恥ずかしく思ってしまったんだな。そういう意味で次に会える時までにはもうちょっとましな人間になっていようと思いましたね。いつか彼女に惚れられるような人になりたいという締めで今日終わっておこうかな。オトナになります。