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コミック「ソラニン」浅野いにお

学生気分の抜けない同棲カップルが、男性の死と共に、青春を失う悲しみから立ち直ろうとする話、とまとめたい感じです。


浅野いにおの描く登場人物には、物語の登場人物らしい美形がいないのがいいです。男なら分厚い黒縁メガネだし、女の子ならブタ鼻ですきっ歯だったりします。で、どっちも内向的で、傷つきやすくて、空気を読んでみんなに合わせたつくり笑顔の裏に、どんよりと重い何かを抱えています。その何かは若い読者には自分の可能性について抑え込まれた天井のような共感をもたらし、いい年のおっさんである僕には「懐かしいなぁ、その成長痛」と言った感じのノスタルジーをもたらします。


物語に大事な人の死を描くのは安易過ぎるという考え方もあるけど、ソラニンにおける「死」は、モラトリアムのまま時間が止まった人(永遠に青春を生きる人)という暗喩にも受け取れ、彼に関わり取り残されたバンド仲間たちの心境や、社会の一員として踏み込んでいくべき年齢は、先の見えない経済情勢ともリンクして、大きくリアルな不安感を演出します。


そして迷いぬいた主人公たちは、死んだ彼との思い出に寄り添いながらも、青春との決別をする儀式に自ら踏み込んでいくわけです。涙の先には、今よりもきっと乾いた、よりつらい景色が待っていることはわかっていて、それでも歩き始めて、新しい景色と運命を手繰り寄せないといけない。これはそのはじめの1歩が描かれた物語なのだと思います。「ソラニン」ってジャガイモの芽にある毒のことなんだけど、成長痛とそういう苦しさともリンクしている気もします。甘えているが故に、感じる毒もあると言うか。毒に染まりにいく自分を客観視していると言うか。


この冬、主演:宮崎あおいで実写映画化されたので、この機会に原作を読んでみてはいかがでしょう?