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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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映画「アイアムサム」

I am Sam : アイ・アム・サム
松竹 (2002-12-21)
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「アイアムサム」を見た。知的障害っぽい父親とお利巧でかわいい(←重要)女の子の引き裂かれる家族愛っていう設定だけだと、「レインマン」と「クレイマークレイマー」を混ぜた感じ? ありがちと言えばありがちだし、まぁそういうのを見たい人だけ見ればいいんじゃないの?って割と引いた感じで見始めていたんだけど、話の構成が中盤以降予想と違っていたのでだんだんと引き込まれていってしまった。


まず意外だったのはあんまり「泣かせよう」っていう演出になってなかったところ。僕がこの題材を映画にしなさいって言われたら、もうベタベタに甘くて悲しい演出にすると思うんだよね。音楽なんかも泣かせようというところにピークを持ってくるようにするだろうし、主人公の親子を引き立たせるために、嫌な奴をはべらかしたりすると思うんだ。でもそうなってなかった。


父親を脚本的に貶めようとするのは、物語の取っ掛かりである父親の子を身ごもったホームレスの女性だけだ。彼女は娘を出産し、退院したその足で父親と娘の前から母親であることを放棄し、姿を消してしまう。だけどそこよりあとでは二人をだまそうとしたり、貶めようという人は出てこない。せいぜいクラスメートを家に呼んだときに「うちのお父さんとなんか違う」「バカな振りをしている」って言わせるぐらい。そのイノセントな発言がリアルだし、逆に胸が痛くなる。


裁判が始まってからも「家族同士こんなに愛し合ってんだもん、親権あげればいいじゃん」→「ハッピーエンド」って言う風にならない。敵役の検事も主人公達をいじめる、引き裂くというより、現実社会の代弁者としてそこに立っている。愛だけじゃどうにもならない部分は絶対ある、甘いのは主人公側だと常に言い聞かせられる。


残念だったのは、娘と父親に外界からまだなんの負荷も掛かっていないハッピーな時間を描いている部分が前半に短すぎるため、そのすぐ後に畳み掛けるように引き裂かれていくシーンでうまく感情を重ね合わせることが出来ない点だ。


父親は度重なる裁判で子供のように感情に揺られ、検事の誘導尋問にさらに揺さぶられながら、結局親権は誰の手に渡ったのか描かれない。ここがリアルだと思った。法律上はシビアな判決が下されていようとも、たぶん親子を取り囲む共同体が支えあう形で、二人にとって理想的な今後の人生が広がっていくことを感じさせる、そういうラストだ。


「よかったね、愛って大事だね」っていうまぁ、大事かもしれないけどご都合主義が多すぎる映画の世界で、なんかこう割といいバランスで社会性と個人主義みたいなものを両方同時に描けてるいい作品だな、と思った。