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映画「ピンポン」

ピンポン ― 2枚組DTS特別版 (初回生産限定版) [DVD]

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スーパーカー松本大洋にずっと思い入れのある僕にとって、この組み合わせで映画化の発表をされた時からなんだか微妙な気持ちが続いていた。予告編を見て卒倒した。予想の中の最悪の結果だったから。浮いた台詞、ちゃちなCG、貼り付けたようなスーパーカーの楽曲の扱い。どれを取っても湧き上がるのは悲しい気持ちばかりだった。


そもそも松本大洋の漫画は「映像的」であっても「映像」ではない。卓球のシーンも動画的な美しさではなく、止め絵の美しさで動感を出している。それでもなお映画化するのであれば、それなりの映像的な解釈や消化が必要なんだ。でもそうした当たり前の前提を超えて実写化を選んだメリットは少しも感じられなかった。


例えば、江ノ島松本大洋の物語にはよく藤沢や江ノ島が出てくる。この映画も原作に習ってロケ地に江ノ島を選んでいる。でも映っているのは今日初めて観光で訪れた人にでもわかる表面的な江ノ島だけだ。江ノ島にしかない風景、江ノ島にしかないトーンっていうのがもっとあるだろう? 狛犬がアップで写ったから何? 海の匂いも草木の匂いも汗の匂いもないそんな江ノ島なんて何の魅力もない。江ノ島に数回しか行ったことがない僕だってもう少しまともで松本大洋らしい場所、ピンポンに出てきそうな場所を知っている。


ミクロやマクロ的な視点についても言及がない。目にとまったのは卓球台のネットにそっと止まるトンボ、ツブ高のラバーを激しく揺らすピンポン球の2箇所と、映画が始まる瞬間にがーっとカメラが引いていくところの対比ぐらい。もっと卓球台のコーナーぎりぎりを突いて激しくスピンするピンポン球の摩擦とか、回転の掛かった球にドライブをかけなおして歪んで波打つラバーとか、相手のラケットから発射されるまるで白いレーザー光線のようなピンポン球の軌跡とか、その動きを追って飛び散る汗と、その汗をこすり木の床との間でイルカの鳴き声のように音を立てるスニーカーのソールとか、実写だからこそ見てみたいそういう箇所がいろいろいろいろあるじゃんよ!って思う。全然ない。


実写が漫画やアニメよりリアルかと言われるとそんなことはない。部品を全部手で用意しないといけないアニメや漫画と違って、背景などのディテイルを詰めなくてもそれらしい映像に見えるってだけだ。何かがそこに映ってるってだけ。コミックス5冊分を2時間に圧縮するのは大変な作業だと思う。観る者それぞれに思い入れのあるエピソードが削られたり、名シーンを繋いだだけになってしまうのはいささか仕方のないところもある。でもだからって漫画らしい台詞を実際の人間に言わせる違和感はぬぐいきれない。スマイルとチャイナに関しては、すごく自然に台詞とアクションが噛み合っていて、あぁ、こういう奴いるかもねっていう人間らしさを実写の向こうに感じるんだけど、その他のキャラクターは主人公のペコを筆頭にドラゴンもアクマもおばばもコーチも本当に書き割りのキャラクターという感じだ。決められた台詞をただ言わされている人形みたい。特にドラゴンとアクマは見た目が似ている分、見ていて余計にしんどかった。


ペコとドラゴンの試合のときに漫画だと、ドラゴンの威圧感の表現としてぐあー!ってドラゴンの体が大きくなったりするんだけど、実写にこそそういう表現が欲しかったと思うんだよね。映画のドラゴンはペコと並ぶと実はちょっと背が低かったりして、あんまり強そうに見えなかった。普段はともかく、試合のときは北斗の拳ラオウぐらいでかくてもよかった。そんな人間いないよ!みたいな、そういうデフォルメ。


スーパーカーをはじめとするテクノ寄りな選曲も、その中途半端にこぎれいな映像ゆえ、卓球に掛ける高校生の情熱ではなく、映像としての冷たさを強調してしまっている。そもそもスーパーカーを死ぬほど聴きつづけた僕には、こんな映像なんかより、よっぽどトリップでミラクルな映像がもともと見えていたのに、松本大洋スーパーカーにもさほど興味がないような人たちにこんな形で「あ、いいんじゃない?スーパーカー」みたいに思われるのが一番シャクだ。ま、でも普段聴いたことがない人の耳に触れること自体はちょっぴり大事かな、プロモーション的にはだけど。


そんなわけで1800円を払って観る映画としてはかなり納得がいきませんでした。テレビドラマの2時間枠だったら十分かもしれないけど映画じゃやだな。予告編の言葉を借りれば「一番寒い夏が来た」って感じ。同じ予告編を見る限りでは「青い春」の裏で鳴っているミシェルガンエレファントの、ギャーギャーがなり立ててるんだけど「からっぽ」って感じのあのひりひり感の方が、松本大洋の世界観に近そうだと思った。スーパーカーを使うなら、台詞の量を半分ぐらいにして、江ノ島の風景の美しさ、躍動感のある試合のミクロ的な視点にもっと時間を割いて、ピンポンのイメージビデオみたいにすべきだったかな。それならもう一回お金を払いたいです。


スーパーカー松本大洋が好きすぎるゆえに、えらそうなことばっか言ってすんません。