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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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CD「SUNDAY PEOPLE」スーパーカー

Sunday People

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天才っていうのは「人に出来ないことをさらりとこなしちゃう人」のことだと思ってた。半分はアタリだけどそうじゃなかった。それだけだったら割と努力や体力で補える部分が多いけど、実際には「根性なんかで補えない決定的な差異」を埋める単語としてあるわけで、その意味を踏まえると「誰でも簡単に真似できそうだけど、やっぱり誰にも出来なかったことをさらりとできちゃう人」ってことになる。「世界一長い小説」は時間さえ許せば書けそうだけど、「世界一短い小説」はなかなか難しいってな感じか? 時と場合によっては「センス」なんて言い方もできるのかも知れない。


そしてそこで生まれるものって言うのも必ずしも発明じゃなくていい。世界で一番乗りって言うのは割と日頃の反復と努力でどうにかなる場合が多い。あなたが何かの専門家やオタクであるなら、今までそういう感覚に一度や二度たどり着いたことはあるでしょ? で、後発の人に言うわけだ。「あんなの3年も前に自分がやってたことじゃないか!」。でもそれはお門違い。時代にとって何が新しいかと判断するのはそれを切り出すタイミングにも大きく左右されるから。だから天才のクリエイティビティって、冷蔵庫のありものの材料で鉄人もびっくりな料理を作っちゃうようなことなんじゃないかなぁと思うわけです。


で、本題のスーパーカーのニューシングル「SUNDAY PEOPLE」。1stアルバムまでのわかりやすくも潔いギターポップバンドというリスナーのイメージは、スーパーカー本人達からすると50%にも満たない一側面でしかないんだそうだ。なるほど、今作を聴いてみてまず耳につくのはブレイクビーツばりの打ち込みリズム。でもそれが何故か「新機軸!」とか「野心作!」とかって感じがしないくらいあまりにすんなりと体の中に受け入れられる。そして温かい。あまりのやさしさに僕は仕事中、涙がこぼれちゃいましたよ。


あんまり比較論では話しをしたくないんだけど、今まで聴いてきた音楽の中で似ている曲を探すときりがない。スパイラルライフとかフリッパーズとか、もう10年近く昔に日本でこんなようなテイストを構築してたのは誰だってわかること。バンドサウンドを壊さない上での新しいアプローチという点ではスピッツの「運命の人」で見られる打ち込み風のリズムや味付けもまだ記憶に新しい。スピッツの場合はいくつかの迷いと、音楽的持ち駒を増やそうとする半端な野心が、結果的にかすかな消化不良を起こしていた感じがあったけど、その10歳以上も年下でデビュー2年目であるはずの彼らには「野心」も「野望」も「ひけらかし」も「迷い」もない。生まれて育ってきた中で日常聴いてきた音やリズムが体の中に自然にたまっていて、それがある日あるきっかけで、するすると繋がって出てきた感じ。それは「実験性」なんて言葉からは一番遠いタイプの音であり、音を重ねる気持ちよさを伝えるには一番の近道だろう。そうした感覚の組み合わせから生まれる世界観は誰かに教わることの出来ない唯一無二の持ち駒であることは言うまでもない。そこがこのバンドのシンプルさ、潔さ、ついては若さに象徴される美しさを担っているんだろう。


スーパーカーを聴いて演奏が下手だ、とか、使っているコードが少ない、とかって言う人がいる。普段楽器をやっている人達に多いんだろう。例えジェラシーがそう言わせているんだとしても、そんなとこでしか音楽を語れない人達をとても不幸だと思う。誰にでも真似の出来る発明はいつだって世界を救ってきたし、なによりもまず「下手で単純なのに、こんなに輝ける」って事実を受け入れられないなんてね。センス無いのもいいとこだよ。スーパーカーの演奏技術はいつか努力で補えても、スーパーカーの美しさにはきっとずっと追いつけない。