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漫画「フラグメンツIII」 山本直樹


今日この本が手に入らなくても、今日は山本直樹のことを書こうと思っていた。「セックス」についてってことになるのかなぁ。


山本直樹のお話にはいつもセックスが出てきて、セックスしないときがないんだけど、ほかのどんな人が描くセックスより、山本直樹の描くセックスは自然というか必然性があるというか、いつもそういうもんだよなぁという気になれる。ちょっと分析してみた時期もあったんだけど、多分どのセックスも悲しみに彩られているせいだと思う。


この本のなかに「みはり塔」というエピソードが入っている。僕は今までの中で一番好きになったかもと思えた作品。会社で読んで実際泣きました。


浪人生の家の元に突然帰ってきた出戻りの親戚。ふたりは幼なじみで、何年ぶりかの数日間抱き合ってばかりいるんだけど、結局何も起こらない。浮ついた幻想だけを抱えて、別れの時間まで村外れの何も見るものがない「展望台」でずっとお互いの手を握る続けるというお話。


なんでこの話が一番いいかっていうと、山本直樹が描く「セックスの悲しみ」の図式が一番はっきり表れていると思えたから。


それは「埋められない距離のためのセックス」を描いているんだと思う。ホンの一瞬の幻でもひとつになるためのセックスじゃなくて、ふたりを引き裂く縮まらない距離をはっきりと自覚してしまうようなセックス。それって悲しいよなぁ。


ここに描かれる主人公達はみんなイケテナイ男の子で、女の子は自分の意志とは切り離されたような不透明ないやらしさで溢れている。普段のままじゃ縮まらなかった距離をセックスを通じて埋め合わせようとする。でも何も変わらない。縮まらないと知った自分の悲しさだけが唯一増えた気がするくらい。


魔法を信じる自分と、現実を突きつけられる自分と、動物としての自分。26才になる今年、オトナ風味なことはえらそうに言ったりするこの頃だけど、その3つの自分は少しもまとまろうとする気がない。僕が惹かれるのはそういうオトナになる過程に突き当たるそういう種類の悲しみで、それをちゃんと描き続けてくれる山本直樹がホントに好きだなぁと思えた。最近再発になった「YOUNG & FINE」「守ってあげたい」あたりが、僕の目指す「イイタイコト」の線にかなり近いと思います。興味がある人はぜひ。