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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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映画「少年H」


妹尾河童の大ベストセラー自伝的小説の映画化作品です。原作は未読なんですが、とても良かったです。太平洋戦争に向かっていき、敗戦する日本を背景に、キリスト教信者で現代的な価値観を持った少年家族とその時代の日本人がどう生き抜いたか、という、まぁ、朝ドラっぽい定形ではあります。

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その定形通りに「戦争って嫌だな」「昔の日本に生まれなくてよかったな」って思うのもいいんですが、世間からちょっと浮いている感じの主人公家族が、背広の仕立屋というだけで警察にあらぬ疑いをかけられて拷問を受けたり、キリスト教的な、しなくていい自己犠牲で身を削って家族内がギスギスしたり、あんなに立派だった父親が守るべき自尊心を破壊され続けた結果、呆けてしまったりするのが、それを観ている自分は有事にそんなちゃんとした抵抗をできる人間や父親ではないな、見せつけられている感じがして、ぐったりしました。

努力すれば夢は叶うだとか、承認欲求だとか、無数の社会的不安だとかで、本当は定義されてない幸せを追い求めて毎日を無駄にすり減らしている僕としては、この話で描かれる家族は立派すぎて、まぁ、もちろん、物語的な「美談」としての脚色の側面はあるんでしょうが、映画を観ている二時間、自分は一体何を軸に生きてんのかな、と頭のなかがぐるぐるします。自分が思い描いている「普通」がまかり通らない世界に生きている人達の毎日は、ドラマや想像以上にしんどいはずです。

やがて終戦を迎え、戦争を鼓舞していたような人たちは翻って、昨日まで一人でも多く殺して玉砕すると息巻いていた米兵相手の商売をしていたりすることに主人公は困惑します。「あいつらは潮の流れに流されるだけのワカメだ」と罵倒します。僕はきっとワカメ側以外にはなれないだろうなと思い、それを聞いて、もう少年の見本になるような立派なオトナになることはないだろうなとしんみりします。

自分由来ではないトラブル(戦争、災害、病気、家庭の事情など)に生きる指針を揺さぶられ、破壊された経験のある人ほど、そこで掴んだものっていうのは自身の存在理由そのものだと信じたがると思います。でもそれは思い込みや錯覚でいいんだと思います。信じることが昨日と違うことはたしかに格好がいいものではないですが、無我夢中になって新たな価値あるものをつかもうとした自分は、その分しなやかにたくましくなっているイメージがあります。そうして汚れてみて、少年のまっすぐな気持ちや疑問に触れるたびに、再定義しなおせばいいんだと思います。つまり、1つの価値あることに身を捧ぐことが人生の価値というより、ダサくなってたくましく生き抜いた人生自体が価値を生むかもしれない、ぐらいじゃないと、やってけないってことだと思うんです。

そういうことを俯瞰して見せて考えさせてくれたので、少年Hはいい話だと思いました。

また余談ですが、この映画は主演の水谷豊を始め「相棒」のキャストが呆れるほどたくさん出ていて、良いメロドラマを見つつ、相棒キャストのアナザーサイドも楽しめるスピンオフ感もあるので、相棒好きな人なら+15点ぐらい気持ちが盛り上がることうけあいです。