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コミック「ジョジョの奇妙な冒険」25周年

JOJOmenon (集英社ムック)
荒木飛呂彦
集英社 (2012-10-05)
売り上げランキング: 1

ジョジョが25周年だそうでして、アニメ化や展覧会や特集本やゲームなどにぎやかな2012年です。僕は歳のせいもありますが、ジョジョ以前からジャンプでの荒木飛呂彦を「絵も語り口も気持ち悪いけど忘れられない記憶を残す作家」として見ていながら、少ないお小遣いの中で「魔少年ビーティー」や「バオー来訪者」「ゴージャスアイリン」などのコミックスも全部揃えてましたから、結局相当好きだったんだなと思います。「ジョジョ」の連載も第一回からジャンプの発売を楽しみにしてて、タイトルに「奇妙な」ってなんだ! アオリの「深紅のロマンホラー」ってなんだよ!意味わからん!とまずいものグルメみたいな感覚でめちゃくちゃ楽しんでいた記憶があります。それまでの作品が2巻未満の短命なものばかりでしたので第一話に大きく「第一部 ジョナサン・ジョースター その青春」と書かれていたのを見た時は「大きく出たな…。序章って書いてある映画とかドラマって大抵ポシャるのに」と引き気味でしたが、少年誌とは思えない作りこんだ世界観にどんどん引きずり込まれ、ディオが吸血鬼になるころには完全に虜になってしまっていました。もちろんそれが25年も続いて、この21世紀に第8部を書き続けているとは思いませんでしたし、ジャンプの後ろの方のページに載っていた無人気作っぽい印象だったジョジョが、テレビで特集されたり、数々のアイドルの口から大ファンですって飛び出すような作品になるとは思いもしませんでした。例えればエスニック料理というか、癖が強いけど、少数のめちゃくちゃ好きな人が支えているというものだったと思うんです。


第2部になって主人公が変わり、見た目が全く同じなのに、性格が真反対のジョセフになって、少年漫画らしさが加速します。人気が出てきたのも2部以降だったと思います。時代も50年経って、前主人公の孫っていう設定もわくわくしました。敵役が4人になって、ボスに向かってそれを順番に倒していく、わかりやすいバトル物構成だったのもあると思いますし、主人公の性格がいい加減さと時折見せるまじめさにギャップとテンポの良さがあって、気持ちよく読者がだまされる感覚もよかったです。


今まで何度も何度も覚えるくらいに繰り返し読んでいたのですが、ここ10年ぐらいあえて読み直さずにおいておいたのをつい先日封印を解いて頭から読みなおしてみました。すると意外にも、1部がすごく面白かったです。構成がすごくきっちりしていて、子供の頃は変に大げさにしているなと思ったところも意図することが分かるようになりましたし、20代でこれを週刊連載で描けちゃう技量にも改めて脱帽しました。


相対的に2部は連載の1週1週のノリと描きたいという熱気で押し切っている感じがありました。後半に行くに従って盛り上がっていくはずだったんですが、微妙に尻すぼみ感がありますね。シーザーが死んでしまって以降はあんまりしっくり来ませんでした。


ジョジョのイメージを決定づけたのは「承太郎」と「スタンド」が出てくる第3部です。たくさんの魅力的なキャラクターとそれぞれのスタンドのアイディアはすばらしいですね。「ジョジョメノン」という25周年ムックに載っているインタビューによれば、スタンドが出てきたきっかけというのは2部の終わりあたりで編集担当に「もう波紋は古いよね?」と言われて仕方なく出したもの、と答えていて、それで結果20年以上も食っていくネタになっていくわけですから、編集(に寄せる信頼)も応える作家もすげーなーと思います。ボスが最初からわかってて、遠くに待ち構えていて、そこに向かっていく道中にどんどん強い敵が現れるというジャンプの定番スタイルに沿ったものながら独自の味付けをしています。敵の強さの表現が戦闘力や戦闘技術的な向上ではなく、性格設定や個性の応用としてキャラクターバリエーションを増やしていく形で対応してます。この段階があったからこそ、後のジョジョが無限の広がりを獲得することになります。


ところが読み直すと案外3部はおもしろくないですね。本来タロットになぞった22人の敵が出てくる予定で始まっているんですが、ボス前までのタロットをモチーフにした敵はそれほど強い魅力はないです。エジプトまでボスを目指して行く旅を妨害するだけの存在。(ホルホースは作者に愛されている感じが凄く伝わっていて別枠感あります)。逆に水増し策で付け足された「エジプト9栄神」という9人からが、その先のジョジョを決定づけた描かれ方をしていると思いました。何が違うかといえば、その9人はそれぞれの生き方とスタンドが密接に絡み合っているということですね。生きるために隠したい弱さやトラウマが暴走してスタンドになっている感じ。だからそれに打ち勝つためには、肉体的な技量よりも強い人生観が主人公側に求められるわけです。スタンドはそもそも精神力のビジョンですが、肉体的に見えるバトルでありながら、精神的にも敵を上回って行かないといけない、そういう二重の葛藤が色濃く描かれていくのが「エジプト9栄神」からなんですね。


さてそうしてジャンプ王道的なストーリー展開を見事になぞって、ジャンプ連載陣の中でも色物枠から見事真打ち枠を勝ち取ったジョジョが、第4部で新機軸を打ち出します。舞台は世界一周をした第3部から打って変わり、仙台をモチーフにした日本の地方都市になり、時代設定も1999年と想像できる近未来になり、コンビニやケータイが溢れる世界になりました。つまり日常が舞台になったわけです。そしてもう一つ。ボスがスタンド使いを操って襲ってくるという設定ではないため、敵味方の区別が曖昧になり、偶発的にスタンド使いに出会い続け、場合によってはバトルになるという形をとることになります。スタンドという超能力が特別な存在であった非日常から、あって当然という日常側に変化した物語とも言えます。これがたまらなく面白い。生活の中で超能力がどんなふうに溶け合っているか、その奇妙さと、それらを点とした時に、点と点が線によってつながっていくことで架空の都市がどんどん解像度を上げていく感覚がとにかく新鮮でした。どこにも旅をしていないのに無限の広がりを感じたんですね。エジプト9栄神以降のキャラクターそれぞれの重みがぐっと掘り下げられているので、それぞれが有機的に絡み合っていく結果いつしかこんな不思議な街に住んでみたい!という気持ちになっていきます。そしてディオ以上のボスなんか出せっこないと思っていたゆるい展開と思いきや、おそらくジョジョファンの中では最高に印象が強いかもしれないボスの登場と、その現代的な性格設定がよかったです。何度も肉体的な強さがスタンドの強さではないというようなことを書きましたが、それを凝縮して具現化したようなボスです。サイコ的なところ、神経症的なところも含め、現代的ですし、都会に住んでいて近所の人がどんな人かよくわからない怖さともちゃんと地続きでリンクしている感じがしました。僕は4部が現存するジョジョの中で一番好きですね。


このあともイタリアを舞台にしたギャングとイケメンチーム戦の第5部、初の女性主人公の6部、再び過去へ舞台を戻し、6部までの同じ名前のキャラクターがわんさと登場するパラレルワールドで馬のレースを繰り広げる7部、そして現在連載中の8部ジョジョリオンと続いていきます。正直なところ6部の後半辺りから、何が起こってどうなっているのかわけがわからなくなくなります。それでも書かずにはいられない熱気が高まり続けているのを原稿から感じることができます。25年間書き続ける情熱というのは積み重ねであり、はずみ車のようなものなんだろうな、と想像することしか出来ませんが。


アニメがつい先週から始まりました。絵が全然似てなくて、予告編も「なんか違う感」があったんですが、コミックス1巻をほぼ1話で駆け抜ける第1回は、脚本のせいなのか、かなり楽しく見ることができました。スタッフを見てみたらシリーズ構成に「小林靖子」とありました。これは僕が大好きな「仮面ライダーオーズ」「仮面ライダー電王」「侍戦隊シンケンジャー」を書いた脚本家の人です。心の動きを描くのがとても上手なので期待が高まりました。2クールやるという噂なので第2部まではやってくれそうですね。


あと新しい格闘ゲームも出ますね。来年になりますが7部までのオールキャストでバトルを楽しめます。これは予告を見てるだけでもたまらなくうれしい! 恐るべきキャラクター数の漫画なのでホントの意味でのオールキャストになるはずもありませんが、悪名高いアイテム課金で自分の好きなキャラクターでも追加された日には、さすがに買わざるをえないと言いますか、むしろ金で解決できるなら、好きなキャラクターをどんどん出してくれ!!と言いたくなる、そんないい感じの出来になっています。過去の格闘ゲームカプコンから出ていて、これはHD版リメイクがPS3/360で絶賛配信中ですが、新作はバンダイナムコから出る予定で、このへんの塩梅もちょっと気になります。


25周年記念の、荒木飛呂彦責任監修のムック「ジョジョメノン」も、クリント・イーストウッドが表紙の承太郎のポーズをしていたり、インタビューで意外な事実が発覚したりと、いろいろ見所が満載なのでオススメです。東京や仙台では展覧会をしているそうでうらましいな! 西の方にも是非お願いしたいところです。