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コミック「君とガッタメラータ!」松橋犬輔


僕が青春モノのお話を書くとしたら一度はチャレンジしたいのが「美術予備校モノ」です。美大進学を目指す若者たちが独特の文化圏を形成しながら切磋琢磨するあの場所は、まだちゃんとメジャー作品になった試しがないからです。

と思ってぼやぼやしてたら出ちゃったんです。それがこの「君とガッタメラータ」です。ガッタメラータというのは入試用石膏デッサンでモチーフに上がることがある「ガッタメラータ像」のことですね。単に響きだけでチョイスしてるんだと思います。


このお話は、ボクサーを目指していた若者が挫折して、その筋肉美を活かしたヌードモデルをしているところから、その自分をデッサンするものすごいかわいい子に一目惚れして、自分も一緒に美大進学を志す側に変わっていくというものです。クリリン並みの不純な動機ですが、アートに全く素養がない主人公の目線のピュアさで、美術予備校独自の「常識」の異常さを面白おかしく描き出してくれます。


「あるあるもの」としてはあまりに層が狭いかもしれないし、ましてやただでさえ面倒くさい性格の美大生のスノッブサブカル層に訴えたところで商売にはならない気はしますが、主人公をアート側に置かなかったことで、変人たちが情熱を傾ける巣窟としての青春モノとしては成立しているので、さすがだなぁと思いました。


主人公が歩む、美大志望生が陥るありがちなデッサン失敗例は、過去の自分を見るようで、また偉そうにそれを講評する単なる美大生の講師たちもリアルです。


デッサンというのは現実の模倣でありながら、実はプレゼンテーションに近い成分を多分に含んでおり、特に受験用のデッサンは、自分がいかに正確に、対象物それぞれの性質を絵でもって説明できる能力があるかをプレゼンする試験です。だから見たままをただ書いているようで、実際、見る人が感じたい理想を描いていたりするんですね。言語表現に例えて言うなら、自分のボキャブラリーの中で、相手に伝わりやすい単語や修飾語を選んで並べる能力に近いです。どんな個性があるデザイナーやイラストレーターがいてもいいですけど、デッサン能力は、就職活動で言うコミュニケーション能力とも近い能力と言えるので、ここがいい加減な作家はあまり信頼ができないんですね。モラトリアム以前、と言った感じです。


だからこそ主人公が、型にはまった画一的な予備校デッサンに疑問を持って「絵は自由表現じゃないのか! 下らない!」と切れる段階というのはアーティストとして欠かせない通過儀礼であり、その答えとして「デッサンを馬鹿にするのはボクシングで言うとジョギングや縄跳びを馬鹿にするのと一緒」と切り替えされて落ち込むのも、美大進学者ならかなり納得できるよいエピソードだと思いました。