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書籍「「ガンダム」の家族論」富野由悠季

新書ってひどいよな、っていつも思います。A4の紙1〜2枚にまとまるような切り口一発のアイディアを200ページに水増しして、800円ぐらい取るでしょ。そういうのがほとんどだからです。その証拠に1章の最後の段落だけ読んでみてください。それが本のすべての内容を8割方要約しているはずです。


でもエッセイなら、オチがないので暇つぶしにはまぁ向いています。この本はガンダムの原作者の富野監督が、ガンダムで育った世代(=アラフォーの僕ら)に向けて、家族とはそもそもこういうもんだ、これからの家族はこうでなくてはならないんだというのを延々振りかざしているエッセイです。時々、過去の監督作品のキャラクター設定や配置をダブらせることはあるけど、基本老人が若者に物申す、みたいな本です。だからタイトルから想像するような「ガンダムの設定や世界観から理想の家族論を学ぶ」ではなく「ガンダムを作ったおっさんが、かつてガンダムファンだった君らに語る家族論」であるところが味噌です。ミスリードですよね。


ひでえなぁ、と思うのは、冒頭に「私は育児を全くしなかった」と書いてあるのに、育児論みたいなのを全ページの半分以上を割いて語っているところです。実践や経験がないんだから、内容は必然的に理想論や個人的な偏見や枠組みの説明になるわけで、自分語りにさえなっていないフレームだけの話がずーっと続きます。


恋愛結婚なんて成立しない、とか、目先の感情ではなく最低限の我慢が続く相手を選ぶべきだ、とか、言われてもな、あなたはそうして幸せだったんでしょうけど、他人に押し付けられるほどのものでもないですよ、と言いたくもなります。


家族とは一番小さな社会なんだ、という当たり前の話から、東北大震災以降の混迷を極める日本経済の心配に話が広がり、アメリカ経済の衰退を横目に、なぜか自分の職歴の話に回帰していきます。


家族とか社会の話をしているうちは、その辺の酔っ払ったおっさんと大差ないんだけど、モノづくりに焦点が合うとやっぱり富野監督はすごいし、ベテランとしての責任感を感じさせます。


「コミュニケーションをするふりをして、自分の内面にだけ没入してモノを作るな、そんなもので誰も幸せになんかできない」と言い切ります。「クリエイターを名乗るなら公に病気を垂れ流すな」とも。


そして行き着く先が「作品とは共有に値するもの」という境地。もちろんそれはいまや一般的なものになっている動画共有や二次創作的な意味での消費ネタとはまったく逆のベクトルの意味ですね。まっすぐな意味でのパブリックドメイン。45年ものキャリアがある人がいう言葉として非常に重く感じられます。


そういう尊敬できる指針を持った老人がいう戯言だから、こんな下らない新書でもつい買ってしまうし、文句を言いながらもページの何処かにきらめく言葉を探し続けてしまうんですよね。