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小説「僕の初恋をキミに捧ぐ」(とケータイ小説について)

かなりの周回遅れ感は否めないのですが、ライトノベルケータイ小説の勉強をしてます。おっさんなんで、もう全然ついていけないってのが本音ですけど。その流れで読んだ本で、面白かったのを紹介します。

小説 僕の初恋をキミに捧ぐ (小学館文庫)
橋口 いくよ
小学館
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ベストセラー漫画をノベライズしたものです。映画版が表紙になっているからそのタイミングで作られたものかもしれません。どっちも見たことがないんですが、但し書きに「映画とは異なります」と書いてあります。一時期流行ったケータイ小説の感覚に近いです。


これは心臓に病気を抱えていて大人になるまで生きられない男の子のことを好きな女の子のお話。基調はラブコメで、つかず離れず。男の子も自分が今以上ドキドキしたら死んじゃうかも?という童貞マインドを、心臓という物理的なリミッターのせいにしながらやきもきします。セックスしそうでしない、したいけど怖い、して欲しいけどやめて欲しい、みたいな二人の機微が楽しめます。タイトルは「僕の初恋を」となっていますが、実際には「僕の童貞を」と入れ替えても何ら問題がなさそうです。(漫画版は知りません)。


話を変えて、ケータイ小説にありがちな要素をざっと書きだすと


・主人公が情緒不安定。喜怒哀楽の変化がめまぐるしい。
・情景描写はほとんどなく、主人公の心の流れ(主観)だけで物語が進行。
・恋人か自分が不治の病、もしくは途中、事故で死ぬ。(望まない別離)
・望まないセックス、妊娠のシーンがある。


これに「信仰」「人種差別」の問題が加われば、海外でも受ける条件になるかもしれないな、と思います。


雑に考えるとチープなメロドラマの焼き直ししかできないんですが、でもよくよく要素を見つめ直すと文学でも普遍的なモチーフであることに気づきます。こういう手垢にまみれた要素をぎっちり盛り込みながら、それでもなお新しい手触りが感じられるものが、ヒットに繋がっているんだろうな、という予測はできます。実際メガヒットした映画や小説も、要素だけ抜き出せば重複しているものも多いでしょう。


例えばゲームの世界がどんどん狭くなって市場規模が縮小しているときに、いわゆるゲーマーからはゲームとは呼べないようなものが新しいユーザーと市場を切り開いたように、ライトノベルケータイ小説というのも、従来の小説の読み方や面白さがわからなかった人に面白さを伝えるための文法である、という考え方は悪くない気がしています。


問題はそれが「本来ゲームと呼ばれていた物」「小説と呼ばれていた物」に回帰しない点ですね。しかもそれらをまるごと上書き更新するほどの力というわけでもない。またお互いの畑のロジックやテクニックも簡単に共有できるものじゃない。商品が置かれる棚と、ユーザーが消費している時間とお金は共有なのに、作り手の間には深い溝があり、お互いに相容れないんです。


インターネットの常時接続が一般的になってきた頃から、レコード大賞オリコンのランキングに意味やリアリティを感じられなくなったり、大型のCDショップが閉店したように、嗜好品というものは結局人の数だけ正解があります。文化が成熟に向かうほどに「大衆的な芸能」というのは解体され、細分化して、個に属していくんだな、ということがよく分かります。しかしコンテンツ産業の未来というものが、ぼんやりとした「一般大衆向け」からどんどん変化を始めるのは当然のこととしても、やがて壮大な二次創作物として部分共有/消費することしかできなくなっていくのだとしたら、それは長期的に幸福なことなのか、今の僕にはまだわかりません。正直に言えばちょっとだけ虚しい気がしています。