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映画「トイレット」

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一癖ある外国人の3兄弟(孫)と言葉が全く通じない日本人のおばあちゃんが、一つ屋根の下でちょっとずつ打ち解けていく、という非常に地味な話です。


僕はこの荻上直子監督作品が全然好きじゃなくて、この映画も半ば仕方なく見始めたんですが、結果から言うとすごいよかったです。いや、ものすごいよかった。


まず今までの作品、例えば「バーバー吉野」「かもめ食堂「めがね」「プール」がなんで嫌いだったかと言うと、「世界」や「関係」を描いているのではなく、おとぼけたコミュニティを無理に特別なものに見せよう、笑わせようとしている気がして、結果的に価値観の押し売りに感じられたからです。ひとことで言うと「こういうのステキでしょ? 憧れるでしょ?」って迫られるような? でも今回は違った。


まず全編英語。あと日本人キャストがもたいまさこのみ。3人の家族はそれぞれ、オタクの研究者、ひきこもりのピアニスト、ロックな妹。間にいたお母さんは亡くなり、兄弟はひとりも日本語が話せず、日本人のばーちゃんは、兄弟と話すこともなく孤立して暮らしている。


毎朝トイレから出てくるばーちゃんの深い溜息をなくしてあげたいとオタクの研究者が動き始めると、バラバラだったそれぞれの家族がある求心力を持って動き始める。ひきこもりは4年ぶりに部屋から街へ出る決意をするし、ロック少女はかっこばっかな彼氏を捨ててエアギター大会の出場を決意する。


会話もなく、そのバラバラな個性を何とかつなぎとめ、そのままのあなたでいけばいいのよ、と口に出さず、金だけを手渡して纏め上げていく。別にばーちゃんが実際そう思って行動してなくてもいいんです。周りが勝手に察してうまく立ちまわってくれてるなら結果オーライです。これ気づいたんだけど、もたいまさこの「ばーちゃん」はこの小さい共同体の中の「天皇」みたいなものですよ。それぞれの孫が、それぞれにやりたいようにやった結果、前よりほんのちょっと物事がベターになっている。成長ってほどではないんだけどお互いにお互いの気分を察して行動した結果、見える景色が確実に変わっていく。それってすごい理想的なはず。その中心には言葉よりも象徴としての存在が必要なんでしょう。


そういう意味でも非常に日本的な美学が、押し付けがましくなく、表現された作品だと思いました。少なくとも次の作品は見たい。