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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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映画「悪人」

悪人 スタンダード・エディション [DVD]
東宝 (2011-03-18)
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田舎の浮かばれない若者が出会い系サイトで知り合った女の子を殺してしまい、別の女の子と逃走する話しです。


犯人を取り囲む、様々な孤独を抱えた人たちのその環境自体が多角的に描かれます。


「69-sixteen nine-」「フラガール」などの明るく楽しい作風とは異なった空気感(昭和サスペンス的な緊張感)はよかったです。主演の妻夫木聡は「69-sixteen nine-」でも主演でしたし、監督の作品同様、明るく楽しい(そして薄っぺらい)若者の役が多かったんですが、田舎の土木作業員でコミュニケーション下手で表情もない、といういつもと全く逆の人格を演じることに説得力もありました。おそらく普通に地味でおとなしいだけであったはずなのに、子供の頃に親に捨てられたことで相手の顔を真っ直ぐ見ることができず、感情表現も乏しく、相手との距離感をうまく測れないで大人になってしまった青年です。汚い金髪と、黒く太い眉毛、腫れたような瞼と頬、土木作業で日銭を稼いで、祖父の介護をし、時たま改造した速い車を乗り回して、出会い系で出会った女と顔も見ずにやるだけの毎日。きっとそういう人って姿形を変えてすごくたくさんいるんだろうな、と思わせます。自分の人生のこの先に絶対幸せなんて待ってない、という絶望を抱えたまま、仕方なく毎日を生きている人。


ただそれ以上に共演の深津絵里が可愛く見えて仕方なさ過ぎる。なんだろうな。彼女も主人公同様田舎の浮かばれない地味な女の子役なんですが、本当にこういう境遇で、社会的視野が狭い、でもとてもまっすぐな田舎娘(30歳ぐらい)は、全国にたっくさんいるんだろうな、というファンタジーに視聴者をどっぷりと巻き込みます。吊るしの紳士服売場の制服姿も似合えば、逃走する犯人から借りた大きめのフリースジャンパーも似合うし、雨にずぶ濡れたコート姿とか、駅の自転車置き場の影でさめざめと泣いている姿とか、「あぁ、ダメな人だな」「でも可愛いなぁ」という気持ちが何度も行き来します。犯人よりちょっとだけお姉さんであるところもすごくいい。寂しさは人一倍だけど、精神的な骨格をしっかり持った女性なんだろうなと感じさせます。


その対比的な存在である被害者の満島ひかりも違った意味で完璧でした。あまりに嫌な女役で完璧すぎたので、深津絵里を引き立たせ、犯人をし透過するためだけの存在に見えちゃうのが本当に残念。もうちょっと彼女にも同情されるべき理由が欲しかった気がします。


あと序盤の緊張感に比べ、中盤から終盤にかけて意味のわからない変な切れ目の編集が、物語とせっかくの名演技を汚しているような気がしたのも非常に残念でした。超傑作になり得た可能性が高かった作品です。