lovefool

たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) 

映画「ノルウェイの森」

すでにいろんなブログに感想が載っていますが、あまりに国民的ベストセラーが原作なので、映画の内容としてどうなのかではなく、自分の村上春樹観と映画との答え合わせに終始しているのがいいです。


結果から言うと、僕の村上春樹観とこの映画とのシンクロ率は80点を超えてましたね。


監督が「青いパパイヤの香り」「夏至」を撮ったベトナム出身のトラン・アン・ユンです。この映画からしてそうなんですが、彼は湿度の高い世界をエロティックに撮るのがとても上手。汗ばんだ肌に麻のブラウス、古い風呂場や洗面台のアジア的な清潔感、鯉が踊ってぬらりと揺れる池の水、マクロで迫った虫や植物の局部とか、わかりやすいエロさと間合いがあるんです。


だから日本が舞台の「ノルウェイの森」でも、どこかベトナムのような匂いがあって、その共感できる湿度と独特の清潔感のコントラストが、村上春樹の現実感とおとぎ話が不思議に行き来する文体とマッチしているように僕には感じられました。


本が上下巻の500ページ程度に対し、2時間13分の圧縮はまるでちょっと長めの予告編のようで、バッサリとカットされた前半部分や、数々の名シーンの、あまりの潔さに笑ってしまうほどで、でも見終わった後の、500ページの読後感と大差ない感覚は、流石の手腕と言わざるを得ません。


特筆すべきは、もう一人の主人公とも言える直子を演じた菊地凛子の存在です。主演の松山ケンイチ水原希子に比べると、正直ハタチの役には見えない、30女の風貌や演技ではあるんですが、あの不安定な直子の、深く暗い森のようなメンヘラ性格を演じるにはふさわしいキャスティングでした。映画を見ている最中何度「うわ!めんどくせえ女!」と思ったことか。


逆に物足りないのは緑役の水原希子で、僕の緑像はもっと「ガッハッハ」系の線の太い、スポーティで快活な緑だったので、ファッションモデルっぽい線の細さの彼女と、あの棒読みの演技は、かなりもったいなかった。


松山ケンイチは、村上春樹ワールドとは違うんじゃないかという気がしていましたが、誰がどうやったって宙ぶらりんに感じるはずのモノローグが思ったよりしっくりきていて、そしてまた、女性にもてそうな程よい甘さと荒さが、なんとも憎らし(羨まし)かった。子犬のような目とか、いやホントすごいわ。


原作は、モラトリアム青年が数々の死を経ながら、とにかく登場する女性とセックス、あるいは射精に導いてもらっている印象があって、それを映像化するんだから、まぁ、散漫にエロシーンが多いものになるだろうなとも思ったんですが、意外にそういう直接的なエロさはなく「めんどくさい女ばっかとなんでわざわざ寝てるんだろうこの人は?」ぐらいに、はぐらかされている感じの距離感も、なかなか興味深かったです。