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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) 

映画「ガタカ」

そう遠くない未来、遺伝子操作によりマイナス因子は排除されたエリートとして生まれることが当たり前になった世界。血液検査で身体的特徴も病気のリスクも寿命もすべてが瞬時に分かるために遺伝子操作がない人間は「不適正」の烙印を押され、あこがれの職業「宇宙飛行士」にはなることができません。それでも夢をあきらめられない「不適正」の青年の物語です。


この話は大きく3つの背景を持った人間によって構成されています。
(1)遺伝子操作によって生まれてそのままエリートコースを歩む者
(2)遺伝子操作を受けずにエリートコースへの入門を予め阻まれた者
(3)遺伝子操作によって生まれたけれど、事故によってエリートコースの脱落を余儀なくされた者


(2)が観客の共感しやすい主人公として描かれますが、実際のところ根深いのは(3)の脱落を余儀なくされたエリートの方です。1度輝かしい将来を約束されながら、もう社会からは不要な存在になっているところです。この映画では主人公をイーサン・ホーク、脱落したエリートをジュード・ロウが演じ、本当にそういう運命の人がいるかのような、圧倒的な説得力を見せつけます。それぞれが背負った悲哀が画面から吹き出してきます。数奇な人生を演じさせたらこの二人にかなう者なしという感じの完璧な配役です。


SF的な舞台背景ながら、完璧に人間ドラマだけにフォーカスして、ジャーゴン(職業専門用語、隠語)やガジェットで誤魔化さない点、50年代趣味の美しい美術設計、マイケル・ナイマンの叙情的な音楽、耽美で気高い言葉の数々は、コンプレックスと絶望の中で僕らが何を信じて生きていくべきか、限られた可能性の中でどんな行動に価値があるのか、そういうことを何度も何度も何度も何度も考えさせます。


経歴詐称に迫り来る捜査官というサスペンス要素の緊張感でテンポを早めていく作りながら、その演出はどこを取っても無駄や虚飾のない研ぎ澄まされたもので、登場人物全員のそれぞれの人生観が台本に書かれていない行間をも満たしていきます。映画にしかできない物語のこの説得力に言葉に詰まります。総合芸術の力ですね。


若い人が見ても、それなりに人生経験を積んだ人が見ても、それぞれの今のライフステージにおいて「人生それでも捨てたもんじゃない」と思わせてくれる名作です。