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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) 

映画「誰も知らない」

誰も知らない [DVD]
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バンダイビジュアル (2005-03-11)
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4人の子を抱える母子家庭。全員父親が違っていて、学校に通わせてもらってない。戸籍もないんでしょう。この世にいないことになっている命です。だから長男以外に部屋の外へ出ることもベランダに立つことも許されない。でもそれなりに母の愛情を受けて今日までを生きてきた。自分の幸せを求めて母親が出て行くまでは‥。


絶望について何度か考える機会があり、そこで得た僕の結論は「あらゆる可能性を試した延命治療の末に、それでもどうにもならなくなったときに心に射す闇」のことだと気づきました。できることを試せるうちは人は前に進める。でも可能性が底を尽きたときには、どんな微弱な一押しにも負けてしまう。でも人はその最後の一押しだけを見て「そんなことで死ぬことはなかったのに」「負けるな、がんばれ」とか言っちゃう。闇に落ちるというのはそんなに単純なものではないです。


この物語の子供たちは、自分たちの不幸にうっすらと気づきながらも、それでも前に進もうと生きています。長男以外は母や誰かを恨むわけでもなく、辛い顔も涙も見せずに、キラキラしたまなざしと笑顔で、4人が今日という1日を生き抜くだけのベターな回答を探し続けます。選択肢は日々減り続け、中には事情を察して手を伸ばす大人たちの姿もあります。でも、その善意であるはずの行為こそが事態をより救いようのない深い闇へと追いやっていることには気づけない。その構造がこの物語のもっとも悲しいところです。


2004年公開ですが、不景気が日本を覆い尽くしている2010年の今の方がより切実なリアルさを持っていると思えます。


体験しなくていい不幸というのは、人を成長させます。生活の維持にさえ強い意志と行動力を必要とするからです。そこに迷いを挟めば、猶予の時間は確実に減っていきます。でもどうしようもない。だからこそ何でもないシーンでも表面張力のように涙があふれる一歩手前になるし、柳楽優弥の雄弁な視線と数少ない表情の中で、時折こぼれる子どもらしい笑顔のはかなさに、体温が2度ぐらいすっと下がります。


自分の生活が明日もあさってもとりあえずの平穏が保証されているなら、今できること、やるべきこと、ってのがもっと強くシンプルに見えてないといけないし、そもそも実行しないといけないな、そう思わせる作品です。