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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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CD「archive」sleepy.ab

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posted with amazlet at 08.09.08
sleepy.ab
3d system(DDD)(M) (2008-02-06)
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暗い歌が好き。もっと言うと暗いけどその中に優しさを感じる歌が好き。


このアルバムはインディーズで4枚のフルアルバムをリリースしているsleepy.abのベスト盤。abの部分は読まなくて「スリーピー」というバンド名だ。アブストラクトを意味している。札幌を中心に活動している4ピースバンド。


冷たいぐらいに的確に自分の境遇と感情を捉えた詞、そして浮遊感のある音が連ねる死と許しの匂いが、とにかく美しい。残酷なことが度を過ぎると時に甘美であるように感じてしまうように、重なる不幸に拗ねたり、生活が退廃的であることはとっくに通り過ぎた先の「死線の向こうから振り返る生」という高いレイヤーからの視点を感じる。絶望から振り返るが故に(現実は変わっていなくとも)今この瞬間に希望に似た光を放つ、そういう美しさ。アルバムを重ねるごとに、冷たい音から徐々に暖かい音に転向してきているのも、興味深い。


4thアルバム発表時のインタビューで、作詞作曲の成山は次のように答えている。

いま生きている人って、特に具体的ではなくても、ほとんどの人がたとえば、みな漠然とした不安みたいなものを感じながらその中で生きていると思うんです。不安な気持ちってみんなにあると思うんですが、それはたとえ日々の小さなことであってもとても切実なことだと思うんです。そんななかで、ときには逃げられる場所とか、立ち止まったりすることって大事だと思うんだけど、逃げられる場所や環境って本当にあるんだろうか。不安なことが問題なのではなくて、本当は逃げ込める場所がないことこそが問題なんじゃないかって。だから、僕たちは音楽を作るなかで、僕たちの音楽を聴いている間だけでもその不安から開放されて欲しい。そんな想いで『fantasia』を作りました。

例えば日本語のロックであり、叙情的な音ながら、恋愛を想起させる内容が極端に少ない。もっとも死の匂いが強く、代表曲でもあるのは「夢の花」。

一人のぼる夜 夢の色 残される僕は
白い空にただ溶けてゆくままに


生き永らえる前提 静かに揺れる幻想
そのままの君に理由を与えられるように


もう二度と帰らない影は 薄れて延びていくだけ
連なる想いは花となりて死ぬる

からして天に召されちゃってる感じ。
「夢」は、現世との対比、地続きだけど触れないものとしての死の隠喩なんじゃないかな。


この場合の「花」は、僕は「生きて紡ぐものすべて」じゃないかと思っていて、死んでも忘れないような、鮮烈な今を紡ぎたいという祈りだと思うんです。でも死に対する憧れや許しとは異なるところに、この歌は魅力があって

もう一度限りある世界に触れて移りゆくだけ
連なる思いは花となりて生ける


夢にまで鮮明な色蘇る言葉教えて
夢にまで鮮明な君蘇る音を奏でる

とまとめるように、たくさんの想いを、死に対しての花として束ねて残したいんだという確かな意志にあるんだと思います。だからこそ、死も生も、絶望と希望も、実際には不可逆でありながら、それぞれにかけがえのない価値を持ったものとして輝きだす。まるで等価値であるかのように境界を甘くしていく。


「毎日はそれぞれ新しい別の日だ、だからそれぞれに別の新しい可能性がある」というのは簡単で、今の僕にはそれをつるっと鵜呑みには出来ないけども、残された時間を逆算していくときに、絶望のルーティンの中で、今この瞬間に持っている限られた可能性や選択肢は、明日にはもう保障されていないことを自覚したら、今日という日はまだそれが損なわれていないことの自由を否応なしに知るはず。それができる内に、それを選べるうちに、自分の足で歩いて君がいるところへ行き、声に出して好きだと言って、その時そこにしかない温度や匂いや光を感じる。そうして共に過ごしてくれた時間と気持ちにありがとうと言う。


その連なりが小さくともいくつかの花として残っていけば、と思うんです。ここにいなくなる寂しさなんてたぶんきっと一瞬。そういう意味で最後にリフレインする「I think everything going well」っていう大らかな希望の結びは、届けるべき気持ちをすべて届け終えて天に帰る魂そのもののように聞こえるんです。


amazoniTunesで買えるのでよかったら聴いてみて下さい。