lovefool

たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

  ラヴフール(www.lovefool.jp) 

映画「鉄コン筋クリート」

鉄コン筋クリート (通常版) [DVD]
アニプレックス (2007-06-27)
売り上げランキング: 2505

DVDで映画「鉄コン筋クリート」を観ました。劇場で観たかったー!!って開始30分は後悔しまくりだったんだけど、細く茶色い輪郭線とか、ビビッドでありながら繊細な発色に、あれ?案外DVD以上の解像度じゃないと無理じゃね?って思った。


シロがすごい。ってか「すんごい!」。シロの声はプリプロ版も含めていくつかのイメージがあったはずだけど、蒼井優のシロは、シロをイメージした誰かの声じゃなくて、完璧にシロの声だった。だから二宮和也のクロがものすごく惜しい。これはクロじゃなくてクロをイメージした誰かの声だ。僕のイメージを言えば、クロはもっと感情のないエッジがくっきりした発声がいいと思う。


物語は原作を非常に遵守。構成は変えてあるけど、空気はまったく同じだと素直に感じられる。だから映画を観てこぼれる不満だとか、腑に落ちない点はまんま原作にも対応する。


例えば、前半「宝町」が外からの人たちの行動や時代の流れによって変わっていくことに対して、クロややくざは「オレの町」だと、強い反発を見せる。でもそれは後半で何も解決せずに終わる。前半、シロはクロがダークサイドに飲み込まれていくことに恐れを為す。しかし後半でハッピーエンドを迎えるまで、具体的なチームワークは何も為されずに、それぞれの心の中の変化で勝手に解決してしまう。つまりテーマと舞台がまったくリンクしていない。でも漫画だとそこに違和感は少なかった。何故なら絵(止め絵)があってモノローグがあって、それはつまり、この物語が内省レベルの話で、そこに描かれている町並みやアクションっていうのはそれを彩る挿絵でしかないのかもしれない。思えば90年代ってのは、それぞれが抱える価値観や退屈を自分の中で壊しては計りなおすってのを繰り返してた時代だったような気もする。それを21世紀のフラットな気持ちで見ると、どこか他人事のセラピーっぽく見えちゃうのは仕方のないことなのかも。


あとアレだけ3Dで立体的な街づくりをしているのに、なぜだか原作が持つ「高さ」を感じなかった。人間離れしたジャンプとか滑空とかいろんなシーンが盛り込まれていたのに「高くない」と感じた。これは不思議なことだ。


絵作りも、よく観てると、すごく違ったタッチのものが同じ画面に同時に違和感なく混ざり合っていることにびっくりする。車の窓の水滴だとか、街灯に照らし出される粉雪だとか。


ともあれ、ありもしない世界のルールをしっかり守りつつ、あるかのように積み上げるその丁寧さと、これがデビュー作だという監督の力量は信じられない。作り手の、原作に対する愛情が強く感じられる作品だった。83点。