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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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にじんでこぼれる(卑怯とふたつの片思い)


「卑怯だったと思う」と彼女は言った。
「卑怯?」


 聞き慣れない言葉に僕は目を丸くした。


「あの日手紙を出したこと」


 僕はそのコトバの意味をゆっくりと咀嚼した。


「僕が喜ぶってわかってたのに出したっていうのが許せないんだね?」
「‥‥」
「卑怯ってそういうときには使わない言葉だよ?」
「‥でも、いやなの」
「自分が許せないんだ」
「‥うん」
「ねぇ、手紙をもらって喜ぶ僕は嘘かな」
「んーん」
「結果として喜ばせちゃったことも許せない?」
「そんなことない」
「じゃあ、それは卑怯じゃないよ。誰かを喜ばせたくて、喜びそうで、やっぱり喜んだっていうのは卑怯じゃないよ。その気もないのに、喜びそうって言う気持ちだけがあって、ちょっと喜ばしてみたくってって言うなら、卑怯なのかも知れないけど。そうじゃないんでしょ?」
「うん」
「なんで、わざわざ卑怯って言っちゃうんだろう」
「‥言葉を知らないからかも知れないけど、うん、卑怯って思った」
「‥そう」


 ちょっと悲しい気持ちになった。今まで飛び交ったたくさんの想いがこんなのでゼロになったりしちゃうのかと思うと物足りなかった。


「‥まぁ、片思いの話しだからね。あんまり考えすぎるのもよくないかも知れないんだけどさ」


 自暴自棄になって、そんなことをうそぶく。明らかにいい答えを期待している。僕こそよほど卑怯じゃん。


「片思い?」


 その言葉に彼女は思いも寄らないという声をあげる。


「片思い?」


 同じ疑問を2度繰り返す。


「あれ? 違ったっけ」


 とぼける、とぼける、すとんとはまる。これが卑怯。でも全然心臓バクバクなんだけど。


「知らない。教えない」


 意地悪な彼女に戻ってる。僕の知っている彼女だ。うれしかった。


「教えてよ」
「教えない!」


 そう言って僕は笑った。彼女も笑った。卑怯とふたつの片思い。幼い恋のお話。