真夜中に電話が鳴る。真夜中に電話を鳴らすような娘はひとりしかいないので「はい神様です」と出てみる。予想通りの笑い声が受話器の向こうから聞こえる。
今いいですか? おびえたみたいにそう言うけど、例えよくないと言ったって、君は続けるんだろう。いったいどんな顔で今この時間をいるんだろう。あの日なんの前触れもなくもう2度と会うことはないだなんて、あんなに僕を傷つけておいて、ケロッと忘れたみたいに笑ってみせる。やれやれ、ひどいもんだよな。
なんにもなかったみたいに、コトバが踊り出す。眠っていた感覚がそっと起きあがってくる。夜の寒さと静けさの中で、気持ちだけに形を与え、つかもうとする。時計の針がぐるぐる回る。
「もう一度あの部屋を作ってと言ったら、ねぇ、怒る?」。僕は頭がじんわり熱くなるのを感じ、それがゆっくり沈殿してゆくのを待つ。のどの奥がからからして、受話器を持つ手がしびれてしまう。やれやれすっかり翻弄されてるじゃんよ。
そんな中で思い出した昔のこと。
「平行線ってすごく遠くの方で交わるっていう式があるらしいよ?」
ホントかどうかなんて確かめようがない。でも傷つけたり、信じたりでしか、僕らは前に進むことができない。