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ドラマ「アオイホノオ」


ここんとこ、作り手のルサンチマン的なものを軸にしたストーリーが多いですね。「描かないマンガ家」「チェイサー」とか、広めに言えば「ブラックジャック創作秘話」「大東京トイボックス」なんかも入るのかもしれません。

アオイホノオ Blu-ray BOX(5枚組)
東宝 (2014-11-19)
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アオイホノオ」は島本和彦の自伝的青春マンガで、今回紹介するのはその実写ドラマ版です。80年代初頭の大阪芸大を舞台に、のちにエヴァンゲリオンの監督となる同級生、庵野ヒデアキとの、一方的なライバル関係に燃える、その名も「焔モユル」が主人公の青春ドラマです。


島本和彦の漫画と言えば、とにかく熱くてくどい! 70年代の熱血漫画のテクニックを使いながら「本気だからこそ面白い、笑える」というのをとことん突き詰めます。そういうコメディは実写化が寒い感じになりがちでとても塩梅が難しいのですが、この実写化はその「本気だからこそ面白い、笑える」の部分をとことん再現することに注力してるんですね。だからすげー面白い。全11話なんですが、1回もダレること無く、走り抜きました。全話きちんと録画したんですが、これBlu-Ray Boxとか買っちゃうかもしれない、そういうレベルの会心の出来です。言ってしまうと実は原作よりずっと整理されてて面白いんです。放映枠も以前「終電バイバイ」を紹介したドラマ24枠ですしね。


分析するに、このドラマ、まずベタな青春ドラマとして骨格がよく出来てます。そして枝葉の部分ではオタクの知識欲を満たすガイナックス結成前夜話としても楽しいです。その中間的な客層である作り手(憧れ)予備軍たちにとっても、心をえぐるようにさまざまな「作り手あるある」話が繰り広げられます。その一方でその辺の雑学に特に興味がない人にも、演出が大げさで馬鹿げている下らないドタバタドラマにも見え、笑えます。要するに「いろんな人達にむけて、いろんな刺さり方がある」、そういう話なんですね。


特にドラマの演出として冴えているのは、「とん子さん」の存在感です。先輩の彼女であり、やたら美人なとん子さんは主人公を甘やかします。いろんな言い訳で武装して、一向に作品にとりかからない主人公を、とにかく褒める。そうやって承認される主人公は無駄に増長し、自己実現的成功から遠ざかりますが、とん子さん自身は自分の悪魔的行為(好意)に無自覚であるという構図です。これは何かとさぼりがちな凡人であるところの僕らの、頭のなかにいる悪魔のようなもので、それでありながら、創作活動には欠かせない「根拠の無い自信」の裏返しでもあります。だから「とん子さん」は必要悪として絶対的な存在なんです。非現実的な松本零士プロポーション山本美月が「そのまんま」実体化しているのも良かったです。低めの声の大阪弁も結果オーライでエロかったなぁ。


また配役も、映画「誰も知らない」で脚光を浴びた柳楽優弥が主役をつとめているのもすばらしかったです。「大げさ」って演技はホント難しいはずです。玉のような汗をびっしょりかいていても、あしたのジョーのように打ちひしがれていても、アパートの廊下をアスリートのように全力疾走していても、少しもふざけていないんですよね。だからこそ絶望に対して共感できるし、笑えます。モノローグだっていろんなトーンが選べる中で、ドンピシャな温度感と演技力で演じ抜いていることに、毎回驚かされます。いやー、プロの役者ってホントすごい! 「アオイホノオ」によって新しい看板とキャラを得たのはもう間違いないと思います。


21世紀になって、ネットの存在が当たり前になって、いろんな業界や社会の暗部が暴かれ続ける中で、本人が経験し、きちんと熱くなったことって言うのは、いつまでもモノづくりの源泉であり続けると思うんです。そういった中で、誰かが表現に昇華した加工済みの情報だけで何かを経験した気になって消費し続けるのはとても危険なことでしょう。でもドラマ「アオイホノオ」はその主人公の悲しい空回り感をゲラゲラ笑いつつ、見終わったあと、視聴者にきちんと「もがくモユルを笑っているだけで何もやってないお前はもっと全然ダメだけどね」と楔を打ってくれる感じが残るので、あぁ、そう言う意味でも好きだわー、と思わせてくれる作品でした。