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アニメ「ピンポン」

takanabe2014-06-09



ほら、僕とか、40代の美大卒だし、松本大洋直撃世代なわけじゃないですか。オザケンと対談が載ってた雑誌Hとか興奮しながら買ってたし、「江ノ島いいよねー」って年に2回はゆってるし。原作漫画は初版で、kindleになったやつもとっくに全巻揃えてたし。もちろん実写映画も劇場で観ましたよね。スーパーカーの楽曲とともに青春の深いところにきっちりおさまっているものの一つです。

そんで時を経てのこのアニメ化ですよ。正直に言えば「なぜ今?」ってのが本心。だけども、「鉄コン筋クリート」の劇場版も素晴らしい出来だったし、そこからの技術の進化が、やっと松本大洋タッチ再現に追いついたのが今! と言えないこともない。

そう、呆れるほどのタッチ再現。どれくらい力が入っているかと言えば、3話になるまでオープニング曲のアニメが丸々仮!そんなアニメ知らない!見たことも聞いたこともない!しかもサブカル系の楽曲はエンディングのメレンゲに任せておいて、オープニングは活きの良い縦ノリロック(ダサめ)なのも、すごい高校生感あっていい! 鉛筆クロッキーをぐわんぐわん動かして、体育館の熱気さえ再現されるあのオープニング、ホントやばいんです。

コーチの先生やオババも原作通りの重みやかっこよさがちゃんと再現されていますし、最初こそ、違和感のあるペコの声も、いきがってるバカ高校生なんだと思えば、あんな感じの気がドンドンしてくるから不思議です。また中国からの留学生コン・ウェンガも、ちゃんと流暢な中国語を話すし、1年経って、日本語がだんだんとうまくなって、文化的な差にも慣れて馴染んできてる感じも、そしてあの悲しい人生の分岐点も、原作以上に血の通った表現になっていたと思います。

原作との大きな差といえば、女性の存在と、現代的なモチーフの登場です。ライバル校のエース(ドラゴン)に卓球協会の会長の娘(モデル)を恋人としてあてがってあり、彼女を中心としたちょっとした恋のエピソードが追加されています。これはピンポンという物語が、「男の世界」を主軸にし、原作では女性はそれを邪魔するものと描かれているのとは相反するアレンジで、普通に考えれば余計なお世話なのですが、最終回まで見終えた時にそれがいったいどんな収まり方に見えてくるのか、今から楽しみです。

「ピンポン」はペコがヒーローとして自覚をし、努力の末に才能を開花させ、勝ち続ける物語であると同時に、卓球に情熱や人生を注いできた様々な人間が、ペコとの勝負を機に卓球で頂点を目指すことを挫折していく物語でもあります。一つの巨大な才能が、それ以外の努力をすべて駆逐していくわけです。つまりは一つの才能が輝くためには、報われない無数の努力が必要だ、という話でもあるわけです。

それは青春群像でありながら、同時にアラフォーあたりの何者にもなれなかったサラリーマンの悲哀にも近しい共感があります。見る側の人生のステージによっていろんなレイヤーで楽しめる、普遍的な話であると言えます。

最後になりましたが、勢い良く始まるオープニングとは対称的でリリカルで繊細なエンディング曲とそのアニメも、この作品の空気感を非常によく表していて、本編の引きとのコントラストが毎回美しすぎるので、是非早送りせずに見て欲しいです。メレンゲ、デビュー当時からこんな名曲ばっかりなのに全然売れてないんで、今度こそみんなのココロに少しでも傷跡を残さないかな、残してほしいなってホントそう思います。