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コミック/アニメ「坂道のアポロン」小玉ユキ

少女漫画が割と読めないんですが、これは読めたし、大変面白かったです。コミックスは全9巻、アニメは全12話。作者にとって初の長期連載作とは思えないくらいの空気感とまとまりに心を打たれました。

50年ぐらい前の昔の佐世保で、横須賀から転校してきたメガネで繊細な青年「ボン」と、札付きの不良と恐れられているアメリカ人ハーフの青年「千」の、ジャズと青春の物語。ボンがピアノ、千がドラムを担当しています。

基本的なエピソードは毎回すごくシンプルで、パターン化されています。

・第三者が二人の関係を乱します。
・ボンが千から離れようと葛藤します。
・二人の演奏の練習場であるお笹馴染みの女の子の実家のレコード屋で鉢合わせます。
・さぐりながらセッションをしているうちに自然に仲直り。

このセッションのアドリブ感と高揚感がたまらなくいいんです。音楽に限らず波長が合った仲間とモノづくりをしていると似たような「音楽的な興奮」とか「ドライブ感」に達することが時々あって、それはとても麻薬的な抗いようのない体験なんですね。それを表現された!と思いました。

僕はアニメ版を先に見て、その指の動きや実際に鳴らされる音自体にも興奮したんですが、コミック版を見ても遜色なく、その興奮がありますし、むしろアニメ版は正確にコミック版を動画化することに成功しているのことがわかります。

主人公のボンの発想があまりに女性的すぎるとか、ホモ同人誌がたくさん出そうなシチュエーションとかは最初でこそ気になりましたが、物語を読み進めていくとその繊細さこそがこの物語の軸であり、音楽性なのだとわかってきます。

ジャズと言いながらも出てくる曲はアートブレイキーの「モーニン」だったり、そうだ京都に行こうで使われている「マイ・フェイバリット・シングス」やビル・エヴァンスの「マイ・ファニー・バレンタイン」程度の話で、まったく素養がなくても楽しく聞けますし、そもそも二人の心が近づいたり離れたりすることが、そのアレンジや演奏に現れること自体が一番の売りどころなので、先入観なしにそのままフツーに楽しむのがいいんだと思います。音楽は菅野よう子が担当しています。

コミックスには5巻まで、巻末に読み切りファンタジー作品が併載されていて、こちらも地味でかわいらしい、普段の作者の目線がとても好印象でした。現代劇のちょっとしたファンタジーが僕は好きすぎるのかも知れません。