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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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コミック「東京プー」すぎむらしんいち


昔大好きだった漫画を掘り起こしては読みなおしてます。結局のところ、漫画にせよ、音楽にせよ、映画にせよ、ゲームにせよ、思春期に直撃したものを体感上で超えるのは難しいのかもなぁという感想。それはつまり感性の老化なんでしょうけども。

東京プー 1 (ヤンマガKCスペシャル)
すぎむら しんいち
講談社
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すぎむらしんいちは、要訳出来ない話をよく書きます。ロードムービーというか行き当たりばったりというか。この話は、家出した幼妻を探しに東京へ行く男のお話ですが、割とそういう前提はどうでもよく、第1話にして記憶喪失になり、自分がどこの誰か、そもそもの目的をも忘れてしまいます。そこから先は「自分探し」の名を借りた、行き当たりばったりが始まります。


まず出だしからおかしい。
1ページ目「俺はカマロの信也」
2ページ目「カマロは売った」
出だしの前提を2ページ目で全部ひっくり返してます。


主人公の「信也」は頭がいい方とは言えず、取り立てて才能もなく、でも体力と今に向きあう情熱だけは人の100倍ぐらいあって、濁流のように彼を巻き込んでいくトラブルが、結果的に彼をものすごく輝かせています。バカだけど愛せるキャラクターに思えます。


要約できないとは言ったものの、精神的な構造で物語を分析すれば、それは、自分が「あっち側(アウェイ)」と認定した場所にどぶんと飛び込んで、そこで大事な何かを得て、過去のものを失いまくる代わりにそこでの自分の新たな役割を獲得していく。事態は何一つ好転してないけどめまぐるしい変化をしていて、トータルでプラマイを考えると、それを希望と受け取れないこともない、みたいな、そういう掴みどころのない話です。


でもそれがすごく好きです。その掴みどころのない瞬間的な情熱にこそ価値があると。瞬間風速を積み重ねたものが人生なのだと。


出てくる女性が見た目もかわいいんですが、内面からにじみ出るエロさに実在感があるのがいいです。東京プーの場合は今日子さんのホットパンツから伸びる生足にそのすべてが凝縮されてます。


他にも一コマ二コマしか出てこない脇役、例えば逃走中にちょっと乗ったタクシーの運転手にも、セリフたった一つとかで人生観や生活の奥行き感を感じさせられたりします。ホントすごいな。すぎむらしんいちの描く物語の世界に行けるものなら行ってみたいな、と思わせる魅力がいっぱいです。


全5巻なんで、実写映画化も視野に入るサイズではありますが、あえて実写化してほしくない、無名の名作です。93年の作品ってことはすでに約20年前…。僕の感性ではまったく古さを感じませんけども、じじいの懐古趣味なだけの可能性も高いので、その辺はご容赦を。