旅に何を求めるかって人によって違うと思います。買い物や食べ物で欲を満たしに行く人、名所巡りする人、もう一つのふるさとを探し続ける人。で、僕はどっちかと言うと「家が一番だな」って客観視するための遠出だったり、仕事のサイクルから抜けて「人間的な生活ってなんだろな」って再起動する時間だったりします。つまり開拓された観光地や買い物や食事は全く興味が無いし、放電系の場所で、思索できることが重要です。
ゲームにも恐らく「旅」と同じ効能や意味を持つ側面があるように思います。現実や日常を離れ、デフォルメされたルールの中で、メタ的に現実や日常を振り返る時間というか。
回り道が長くなってしまいました。今回紹介するゲームは「風ノ旅ビト」と言う、PS3のダウンロード専売ソフトです。原題はずばり「JOURNEY」というそのまま「小旅行」ですね。
なんで旅の話をしたかと言うと、このゲームがかなり僕が旅に求める要素を持っていたからです。
・言葉が要らない
・自分で発見しながら進む、好きな速度で進められる
・出会いがあるが、相手をしてもしなくてもいい
・景色の美しさに呑み込まれて、自分の存在のちっぽけさに気づく
・経験はそれぞれの心のなかにだけ残る
・行った回数分、そこでの役割が変わってくる
ざっと羅列するとこんな感じですね。1つずつ簡単に説明します。
・言葉が要らない
このゲームは海外で作られています。しかし画面の中に言葉やゲージや現れません。序盤にコントローラの説明がわずかに出てくるだけです。画面の中の景色から情報を読み取り、仕掛けを動かし、チェックポイントを探して進んでいくオリエンテーションのようなゲームです。これって世界観に没頭するのにほんと最適です。ゲームの基本的操作ができる人なら老若男女のみならず、世界中の誰もが遊べるってことですしね。
・自分で発見しながら進む、好きな速度で進められる
難易度的なものがほぼありません。進みたいところにどんどん向かっていくだけ。ゲームオーバーもありません。プレイヤーを急かすものもいませんので、好きなだけ迷って、好きなところでやめられます。でも不思議と辞めたくなりません。
・出会いがあるが、相手をしてもしなくてもいい
このゲーム、実はオンラインゲームなんです。でもコミュニケーション手段がほぼありません。だから一緒に旅をしてもいいし、無視してもいいんです。一つのボタンに音楽のように文字を発する機能がついてますが、会話というより、熱帯魚の水槽を叩いているような気分です。でも同じテンポで返事をされたり、歩くのが遅くて遅れた時に、先で待っていてもらうと嬉しかったりします。
・景色の美しさに呑み込まれて、自分の存在のちっぽけさに気づく
フォトリアリスティックとは違う、手の込んだ版画のように情感に溢れた砂漠の景色は本当に息を呑みます。砂のサラサラ感や、太陽の状況によって変わる砂の表情の豊かさ、温度だけでなく湿度や匂いまで感じる風が心と体を駆け抜けるようです。
・経験はそれぞれの心のなかにだけ残る
クリアまでは案外短いです。でもそこで何が起こったのかというのを文字にするのはとても難しい体験です。人によってはそれに「人生」を感じたり、仏教的な教えを感じたりもするようです。でも言葉にするとその気持ちが定着しちゃうのがもったいないので、それぞれの経験として心に留めて欲しいです。「夢」ぐらいがちょうどいいかな、僕は。
・行った回数分、そこでの役割が変わってくる
オンラインゲームであり、コミュニケーション手段が限られている反面、なんとなくその人が好意的かどうかは動きや文字の発声で伝わります。そして1回謎を解いた者は、それが意図的にでも無意識にでも新たに訪れる初めての旅人をそっとサポートすることになります。初心者を無視して進めてもそれは直接的に攻略法を教えることになるし、初心者に攻略や発見の楽しみを残そうとすれば、それはかなり達観したプレイを自分に強いることになります。まるで旅行者がその土地の魅力に呑まれて、現地人になってしまうかのようです。
これらの体験がめいっぱい詰まって、なんと1200円という破格のこのゲーム。暑さにうだる日にエアコンの効いた部屋でプレイするのもいいですし、夜の孤独を知らない誰かと分け合うのもまたいいでしょう。ゲームが持つ表現やコミュニケーションの可能性をぐっと押し広げた名作だと思います。
また最後になりましたが、音楽も叙情的ですばらしく、サントラがiTunesStoreで750円っていうのも衝撃的な英断です(しかもソニーだし)。合わせて買っても2000円いかないわけですから、オススメっつーか、みんな買え。