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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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一口サイズ

takanabe2010-05-25



レコードの時代、盤にA面とB面があったので、アルバムの構成は対称形になることが当然だったし、外側と内側では音質が違うので、面が変わって最初の方にいい曲が入って、内側の終盤の方には捨て曲が入ったりしてた。CDになるとA面B面の切れ目も、音質にバラツキもないので、レコードよりも長い74分の中でテーマ性や曲順を突き詰めてアルバムを構成することができた。曲を飛ばすことも順番を入れ替えることも出来るようになった。やがてデジタル配信になって、アルバムの縛りを越えて好きな曲だけを買うことが出来るようになった。CDショップに行く必要もなければ、捨て曲を我慢してまでアルバムを買う必要もない。作り手も曲の数合わせをしてアルバムを仕立て上げなくてもよくなり、リスナーはアーティストやレコード会社の枠を超えた他の何千何万曲と混ぜて持ち歩けるようになったりした。


でもその便利になっていく一方で、多分音楽に向かう姿勢はどんどんカジュアルになった。今、音楽を毎日聞く人は少なくないだろうけど、音楽だけに集中して向かい合っている時間を持っている人はほとんどいない。移動しながら、仕事をしながら、食事をしながらとか聞いてる。アルバムと言う単位も解体され、1曲単位で好き嫌いをふるいに掛けられるようになり、すべてのアルバムがコンピレーションアルバム程度の意味合いになった。大きな家具調ステレオはミニコンポになり、ラジカセ、ウォークマンを経て、PCとiPodになった。ヘッドフォンがたくさん売れるようになった。音質だって、実際にはレコードからCD、MD、mp3とどんどん劣化してる。つまりは、送り手の都合よりも受け手がいつでもどこでもつまみ食い出来る形に、音楽は進化してきたのだと言える。ポップミュージックだとiTunesエンコードしたときにバランスがよくなるようにミキシングしたりしているらしい。今一番聴かれるハードがiPodなんだからそれは正しい選択かもしれない。


個人サイトもそんな感じ。決まったパソコンから決まったサーバーに、それぞれに名前をつけてデザインしたファイルを一個一個アップしてサイトを作って見てもらっていた時代から、ブログになってどのパソコンからでも更新ができるようになり、「日記」って言うのさえ今ではもう重くて、Twitterみたいに思いつきやコミュニケーションや情報源が小さく切り取られたサービスで、パソコンよりも屋外で更新することが多くなった。何か他のことをやりながら更新することがほとんどだ。報告に近い記事が多い。見る側もケータイで見れないものは嫌うようになってきた。更新頻度もどんどん上がって数分の間にやり取りされるコミュニケーションが当たり前になったりしてる。初期の個人サイトに比べたら、もはやライブに近いコール&レスポンスだ。


コンビニで売っているお菓子も、1人前よりもちょっと少ない食べきりサイズが流行ってる。これはお菓子そのものを楽しむサイズじゃなくて、「ながら」の時間を彩るためのパッケージングだ。


生活必需品じゃないものだからこそ、いかに手軽に、いろんな人のいろんな生活の隙間に入っていけるかどうかが、生き残る鍵になる。そういう意味では、アーケードゲームが家庭用据え置き型ゲームに推移して、携帯ゲーム機に主力は移ったのは当たり前のことだ。今やそれさえもちょっと古く重く感じ始めているタームに入ってしまっている。もはや1時間や10分の暇ではなく、1分を取り合っている時代だからだ。かつて専用ゲーム機は、それでしか得られないインタラクションや画面の豪華さにアドバンテージがあったけど、ゲーム機を追い抜いたCPUや解像度が溢れている今は、言い方を変えれば、アクション性が高いものでなければ、ケータイなどの他の汎用機でも代用ができてしまうってことでもある。またアクション性の高さは「ながら」に対して非常に相性が悪いという側面もある。部活型のマゾ的な鍛錬とか、もうマニアしかついてこれないだろうな。ニンテンドウ64の頃の濃ゆいゲームが好きだった僕にはちょっとさみしい。


もちろんすべてのゲーム機が今すぐ不要になることはないだろうけど、他のものと「ながら」ができないもの、1分の間に始めて終えることができないものは、ここ数年の間に徐々に廃れてしまうだろうな。何でもかんでも取り込んで巨大化する人気大作の他に、一口で(1分以内で)ほどよく満足出来るサイクルの仕組みを中小企業は早く見つけないといけない。それはソーシャルゲームから出てくるかも知れないし、iPhoneiPadから出てくるかも知れないし、今はないぜんぜん違う端末やサービスから出てくるかも知れない。でもきっと「一口サイズ」と「ながら」がキーワードになってるはずだと今は思う。