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たかなべが、ゲームやそれ以外の関心事を紹介します。

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秘伝のたれ

takanabe2010-04-27



美大予備校みたいなところでデザインの勉強をしていたときに、無彩色(白や黒やグレー)は色じゃないという教育を受けた。そのせいもあって、いまだに真っ白や真っ黒を使うときにためらいがある。工業デザインの世界だとこれにメタリック(アルミやステンレスの色)を加えるかもしれない。その色で塗られたものには「デザインが及ばない別の世界のもの」と解釈される。


例えば、ブラウン管テレビの背面がなんだかよく分からない形に黒くでこぼこしていたり、昔のiPodの背面はステンレスだったりした。これは厚み方向にはデザインは介在していない(形や量感として捉えないでください)というメッセージだと捉えることができる。PSPが真っ黒くつやつやしているのは、大画面を延長させた形状をそのままグリップにしているから。だからカラーバリエーションは本来好ましくないはず。


グラフィックの世界でもロゴマークの周りを真っ黒や真っ白で縁取るのは、どんな背景が来ても必ず浮き立つようにする、一種の飛び道具。レイヤーが違いますよ、というメッセージ。


だからこそ、そういうメッセージ以外の場所で同じ色を使わないようにしないといけない。少なくとも混在をさせてはいけない。余計なメッセージを与えてしまうことになって、見る人使う人が小さく混乱する。デザイナーが意図して使うなら、ルールが分かるように使わないといけない。丸ごと全部同じ素材だとか、色だとか。


でもこの話を、デザインに特別興味がないフツーの人に話すと、まず通じない。それがなぜなのか30過ぎぐらいまでずっと理解できなかった。でも最近分かった。それって、ただの整理法なんだよな。物事を効率よく割り切っていくためのデザインの言葉。他の例えで言うと何だろう? ガンダムは戦う機能を活かすために人型ロボットという形を選んだのか、人型ロボットのかっこいい活躍のあり方として兵器という機能を選んだのか、とか? 僕はたぶん後者だと思うけど。うん、何の話か分からなくなった。


おっぱいが素敵だから、それを包むブラジャーごとかわいく見えるのか、かわいいブラジャーに包まれて隠されているからこそ、おっぱいに価値があるように見えるのか、みたいな? 正解は人それぞれで、結局使い道は変わんないんだからどっちでもよくね? みたいなことを言いたかった。それはブラジャーやガンダムをデザインしている人が真剣に考え抜けばいいだけの言葉や方法なんじゃないかな。秘伝のたれみたいな。


iPodの背面がピカピカしててかわいいって思ったっていいし、PSPの黒以外が欲しくたって別にいいじゃん。テレビの背面なんか年に何度かしか見ないんだから、どんな形だろうと関係ないじゃん。それはどれもフツーのユーザーの当たり前の感覚だ。デザイナーだけが勝手に苦悩してるべきだ。言い換えれば自己満足なんでしょうけど。


音楽論的にすばらしい構造を持った曲より、楽しい気分になる曲の方がいいし、グルメが褒めた店かどうかより、自分がおいしく食べれたかどうかの方が大事だし、ファミ通が何点をつけようが、自分が愛しいゲームの方がいいじゃん。


デザインに限らず、何に人生を捧げるかによって、物事の見え方捉え方が変わるけど、それをそのまま鵜呑みにしてそれだけを突き通すんじゃなくて、他のジャンルを捉えるときのある種の尺度?みたいに受け止められると、すごくいろいろいいんじゃないかって、やっと自然に思えるようになった。学生が「勉強って何でしなきゃいけないの?」って聞くときの答えと一緒。


で、たぶん、その勉強を各自突き詰めていって、そのジャンルだけじゃなく一般化できるようなシンプルな真理に辿り着くことが「道を極める」ってことなんだろうなって思う。名言が名言として拡がるのって、専門職にもそれ以外の人にも同じくらい応用が利くような言い回しになってるからでしょ? 秘伝のたれの作り方を知ることじゃなくて、おいしい料理を作って食べた人が最高に喜んでくれることの方が重要じゃん。可能なら食塩で究極の味に辿り着く方がずっとすげーみたいな、そんなこと。