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映画「トニー滝谷」

DVDで映画「トニー滝谷」を買った。なんと言うかとても贅沢な映画だ。まず尺が74分って変則。原作は村上春樹の派手とは言えない短編。主演がイッセー尾形宮沢りえでそれぞれが一人二役、ナレーションが西島秀俊。音楽が坂本龍一。それらがこれ以上ない感じでがっちりはまってるから、贅沢ってこういうことだ!って思えた。そもそも原作の成り立ちが村上春樹がハワイで買ったTシャツに「TONY TAKITANI」って書いてあって、そのTシャツを着るたびにその名前の人物の物語を書かなきゃいけないような気になったっていう、できすぎっぽい話から始まってるのがまずずるい。全編のテンポやトーンを支配するピアノの爪弾きと、西島秀俊のだるいナレーションはジャストすぎるし、そこでどういうタイミング取りで作ったんだろうってドキドキしちゃうような、主演の二人のモノローグがナレーションと会話するように挿入される。色彩は都会人の孤独や喪失感や憂いを感じさせる冷たく乾いた(でも美しい)ブルーグレーだぜーって思っていたら、エドワード・ホッパーの絵を見習ったとか言ってて、まねじゃなくて、感覚レベルでこっちまでそれが届いてることに愕然とした。イッセー尾形宮沢りえ一人二役も本当にそういう人が4人いるみたいですばらしかった。原作のことを考えると宮沢りえ一人二役にすべきじゃないって言う人と、いやあれは心象風景としての同じ顔なんだって人がそれぞれいて、僕ははっきりと後者だった。あれは同じ顔であるべきだ。同じであることを求められた存在だからだ。この映画を見終わった後の感想は、映画としての方法論とかボリュームとは別に、ほかに比べる尺度がなかなかない映画だ思う。ジム・ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」を観たときも、30代になってからこれに出会えてよかったなぁと思えたように、この映画にもそれぞれの人生経験の深さを映し出す鏡になる作品だったと思う。オススメ。特典ディスクのメイキングドキュメンタリーは僕の心のベストテン第一位の映画を撮った「シンク」の監督、村松正浩の作品だって言うのも何かの導きを感じます。93点。